金(ゴールド)にも原価がある!価格の底値を決める生産コスト「AISC」とは
金にも「原価」がある
株式に配当や利益という裏付けがあるように、金にも金相場を下支えする重要な指標がある。
それがAISC(オールイン・サステイニング・コスト)、日本語では「全部込みの維持コスト」と訳される金鉱山会社の「総合的な生産コスト」である。
World Gold Council(ワールドゴールドカウンシル)が四半期ごとに公表しているこの数値は、金価格の「底値」を考えるうえで欠かせない基礎データとなっている。
## AISCとは単なる「採掘コスト」ではない
AISCという指標が生まれたのは2013年のことだ。それ以前、鉱山会社は「キャッシュコスト」という指標を使って生産コストを説明してきたが、これは採掘・選鉱など「直接的な操業コスト」しか含んでおらず、鉱山を長期的に維持するために本当に必要な費用を反映していないという課題があった。
そこでWorld Gold Councilが鉱山業界と協力して整備したのがAISCである。この指標には、以下のような幅広いコストが含まれる。
● 採掘・選鉱などの操業コスト
● 古くなった設備の更新、老朽化したインフラの修繕
● 本社の管理費
●環境保全・鉱山閉鎖・原状回復にかかる費用
●採掘している国に払うロイヤリティなど
つまりAISCは、「今日、金を1オンス掘り出す費用」だけでなく、「この鉱山を将来にわたって維持していくために必要な費用」まで含めた、より実態に近いコストを示す指標なのである。
## 実際の採掘コストは
World Gold Councilの最新データによれば、2025年第4四半期の世界全体の平均AISCは1オンスあたり1,706ドルに達し、前年同期比で20%上昇し、過去最高を更新した。
そして2026年の第1四半期の世界全体の平均AISCは1オンスあたり1,785ドルと、2025年第4四半期から4.6%上昇している。
コスト上昇の主な要因として指摘されているのが以下の3点だ。
①エネルギーコストの上昇
大手鉱山会社からは、エネルギー価格の急騰が1オンスあたり最大50ドルものコスト増加につながりかねないとの警告も出ている。
金価格が上昇していても、エネルギーのような生産に使う商品の価格が急騰すれば、期待されていた利益率の拡大があっという間に目減りしてしまうという脆弱性が浮き彫りになっている。
②人件費の高騰
西オーストラリアや北オンタリオといった主要な鉱業拠点では、恒常的な人材不足を背景に賃金上昇(ウェイジ・インフレーション)が続いており、構造的なコスト増加要因となっている。
③設備投資の維持費と環境対応コストの増加
既存の鉱山を「維持・継続」するために必要な設備投資や、排水処理や温暖化ガス削減などの環境関連の費用は、他のコスト項目よりも速いペースで増加している。
## AISCが金相場にとって持つ意味
AISCが投資家にとって重要である最大の理由は、これが金価格の「下値の目安」として機能するという点にある。
論理は単純だ。もし金価格がAISCを下回る水準まで下落すれば、その鉱山は採掘するほど赤字になる。採算の取れない鉱山は生産を減らすか、最悪の場合は閉山に追い込まれる。
生産量が減れば供給が細り、需給が引き締まることで、金価格は再び上昇圧力を受けやすくなる。
つまりAISCは、金相場が理論上「これ以上は下がりにくい」水準を示す、業界全体の損益分岐点としての役割を果たしている。もちろん、生産コストは各鉱山によって様々であり、あくまで冒頭でお伝えした1オンスあたり1,706ドルという生産コストは平均である。
現在の金価格が1オンス4,000ドル台で推移する一方、AISCが1,700ドル前後にとどまっているという事実は、鉱山会社にとって歴史的な高水準の利益率が確保されていることを意味する。
これは業界の健全性という観点からはポジティブな材料である一方、エネルギーなどのコストの上昇ペースが今後も続けば、この利益率が徐々に圧縮されていく可能性がある点には注意が必要だ。直近で言えばホルムズ海峡が開通するのかどうかが大きな気がかりだ。
【プロも重視】金相場を動かす「実質金利」とは?逆相関の仕組み
金(ゴールド)相場を動かす数ある経済指標の中で、プロの投資家が最も重視しているのが「実質金利(じっしつきんり)」です。
一見難しそうに聞こえる概念ですが、仕組みはシンプルで「実質金利と金価格はシーソーの関係(逆相関)」にあります。
実質金利の基本から、なぜ金相場にそれほど強い影響を与えるのか、そして近年起きている“変化”まで分かりやすく解説します。
## 金相場の羅針盤「実質金利」とは?
金投資の世界には、古くから知られる基本原則があります。それは「実質金利が上がれば金は下がり、実質金利が下がれば金は上がる」という逆相関のルールです。
この関係を理解するには、まず「実質金利」が何を表しているのかを知る必要があります。
1. そもそも「実質金利」とは何か?
実質金利とは、銀行の預金金利や国債利回りなどの「目に見える金利(名目金利)」から「物価の上昇率(期待インフレ率)」を引き算したものです。
実質金利 = 名目金利 ー 期待インフレ率
期待インフレ率(Expected Inflation Rate)とは、将来の一定期間において、人々や企業、投資家が予想している物価上昇率のことです。
実質金利はFRBが発表している「10年物物価連動米国債利回り」を見てください。
https://fred.stlouisfed.org/series/DFII10
〇ケースA(実質金利がプラス)
国債の金利:4%
物価の上昇率:2%
実質金利 = +2%(お金を預けておけば、物価の上昇に勝ってお金が増える)
〇ケースB(実質金利がマイナス)
国債の金利:1%
物価の上昇率:3%
実質金利 = -2%(銀行に預けておいても、物価上昇に負けて購買力が目減りする)
2. なぜ「金」と実質金利はシーソーの関係になるのか?
金という資産には、最大の弱点であり特徴でもある「金利(利息や配当)を一切生み出さない」という性質があります。
この性質があるため、投資家は実質金利の動きに応じて金と国債(利息がもらえる安全資産)を天秤にかけます。
【実質金利が「上昇」したとき】
国債を持っているだけでインフレに勝てる利益が得られる
➔「金利を生まない金を持っているのは損(機会費用が大きい)」
➔ 金が売られ、金価格は【下落】
【実質金利が「低下・マイナス」のとき】
国債を持ってもインフレに負けて実質的に資産が減る
➔「利息がつかなくても、価値が落ちない金を持っておく方が安全」
➔ 金が買われ、金価格は【上昇】
これが、金と実質金利が反対の動きをする(逆相関)と言われる理由です。
3. なぜ「名目金利」ではなく「実質金利」を見るのか?
「利上げ(金利上昇)が起きると金が下がる」と単純に思われがちですが、実際には利上げ局面でも金価格が上がることがあります。
例えば、利上げをして金利が5%になっていても、インフレ率が7%まで急上昇すれば、実質金利は「5% - 7% = -2%」とマイナスに突入します。
単に表面上の金利(名目金利)が高いかどうかではなく、「インフレ率との勝負で勝っているか」を見る実質金利こそが、金の需要を左右する本当のモノサシとなるのです。
## 教科書が通じない?近年見られる「構造変化」
長年「教科書どおり」に機能してきたこの逆相関ルールですが、2022年以降〜現在にかけては、このパターンに当てはまらない現象が起きています。
米国の利上げに伴い実質金利が大きく上昇(プラス圏へ推移)したにもかかわらず、金の価格は下がるどころか過去最高値を更新し続けました。
この「教科書外の動き」を引き起こしているのが、以下の要因です。
1.中央銀行(中国や新興国)による爆買い
米ドルへの依存を減らしたい各国の中央銀行が、金利の動きに関係なく外貨準備として現物金を買い続けていること。
中央銀行は2022年から3年連続で1000トンの金を買っています。この量は2021年までの10年と比べて2倍です。
2.地政学リスク(この時はロシアウクライナ戦争)の上昇
世界的な緊張感の高まりにより、「金利による得得(実質金利)」よりも「究極の安全資産としての保全」が優先されていること。
アメリカがロシアのドル資産を凍結したことも含めての地政学的なリスクです。これが1番目の中央銀行の購入につながっているので、本来1と2は分ける必要はないです。
## まとめ:実質金利は今でも「最も重要な基準軸」
近年は中央銀行の買いなど「金利以外の要因」の影響力が強まっていますが、個人や機関投資家が金投資を判断するうえで、実質金利が最も本質的な比較対象であることに変わりはありません。今でも「短期的」には教科書通りに動くことがあるからです。
実質金利がプラスで高い→金にとっては下落圧力
実質金利が低下・マイナス→金にとっては上昇圧力
金相場のニュースを見る際は、表面的な金利だけでなく「インフレ率を引いた実質金利がどう動いているか」をチェックしてみてください。
【生保30兆円の含み損】金利上昇が暴く日本国債の罠。「満期保有で安全」が崩壊する日
2026年8月17日、日本の金融市場に衝撃的なニュースが走った。
金利上昇の影響により、国内の主要生命保険会社13社が抱える国内債券(主に日本国債)の含み損が、6月末時点で合計約30兆円にまで膨張しているというのだ。わずか1年前から6割も増加し、ついに保有する国内株式の「含み益」を上回る危険水域に突入した。
日銀の利上げによる「金利のある世界」への復帰は、長らくゼロ金利に苦しんできた金融機関にとって追い風になるはずだった。
しかし現実は、過去の超低金利時代に溜め込んだ「負の遺産」が牙を剥く、悪夢の始まりとなっている。
## なぜ金利が上がると「含み損」が出るのか?
生保の含み損が急拡大している理由は、債券(国債)の基本的なメカニズムにある。 「金利が上がれば、既存の債券価格は下落する」という絶対ルールだ。
過去の日銀による異次元緩和の時代、生保各社は運用先がなく、利回りが「0.1%」や「0.5%」といったスズメの涙ほどの日本国債を大量に買わざるを得なかった。
しかし今、市場金利が上昇し、より高い利回りの新しい国債が発行されるようになると、誰も過去の「低金利の国債」など買わなくなる。その結果、生保が大量に抱え込んでいる過去の国債の市場価値(価格)が大暴落しているのだ。
これが、30兆円という途方もない含み損の正体である。
## 「満期まで持てば問題ない」という危険な建前
大手生保各社は、この巨額の含み損に対して口を揃えてこう弁明する。 「国債は満期まで保有すれば元本が保証されて戻ってくる。だから、途中の価格変動による『含み損』は帳簿上の問題であり、実際の経営には影響しない」と。
確かに、教科書通りにいけばその通りだ。しかし、金融の歴史はそれが「破綻のフラグ」であることを証明している。記憶に新しい2023年のアメリカ・シリコンバレー銀行(SVB)の破綻も、全く同じ「国債の含み損」と「満期まで持てば大丈夫」という慢心が引き金だった。
彼らが満期まで保有できるのは、「顧客がお金(保険の解約金)を急に引き出しに来ない」という前提が守られている間だけなのだ。
## 迫り来る「解約増」の恐怖:含み損が『実現損』に変わる時
現在、日本は激しい物価高(インフレ)に見舞われている。 インフレがさらに加速すれば、保険契約者たちはこう気づくはずだ。「予定利率の低い円建ての生命保険でお金を寝かせていても、インフレで資産価値が目減りするだけだ。解約して株やゴールド、外貨に乗り換えよう」と。
もし、インフレ防衛のための「保険の解約ドミノ」が起きればどうなるか。 生保は顧客に解約返戻金を支払うために、手元の現金をかき集めなければならない。現金が足りなくなれば、価格が大暴落している手持ちの日本国債を、満期を待たずに市場で「叩き売り」せざるを得なくなる。
その瞬間、帳簿上の幻だったはずの30兆円の含み損は、企業の財務を直接破壊する血みどろの「実現損」へと姿を変える。経営破綻の悪夢が現実になる瞬間だ。
(もしくは、保有債券の時価が取得価格の50%を下回り、回復の見込みがないと判断された場合には、「減損処理」として損失を実際の会計上の損失に計上しなければならないルールがあります。この際にも含み損が確定しますが、日本国債の場合には可能性は低い)
## 超低金利政策が残した「重すぎるツケ」
この問題の本質は、個別の生命保険会社の運用ミスではない。 長年にわたり「超低金利」というモルヒネを打ち続けて、国債を際限なく膨張させ続けた日本政府と日銀の政策そのものにある。
国内の金融機関に低利回りの国債を無理やり消化させ、借金を雪だるま式に増やしてきたツケが今、金利上昇に伴う「国債価格の急落」と「金融機関の巨額含み損」となって、日本経済に重くのしかかっている。
30兆円の含み損は、決して満期まで持てば消える数字だとは限らない。それは、日本の金融システム全体に仕掛けられた巨大な時限爆弾のカウントダウンになりかねない。
中国の若者がハマる「金豆」貯金とは?1gから始める現物資産のリアル
中国では近年、若者の間で「金豆(ジンドウ)」と呼ばれる小さな金製品を購入する動きが広がっています。
金豆とは、その名前の通り豆のような形をした小さな金の塊です。代表的な商品は1個1グラム程度で、純金に近い高純度のものが多く販売されています。
大きな金地金を一度に買うのではなく、給料が入るたびに1粒、2粒と購入して瓶などに貯めていくスタイルが、中国の若い世代から支持されています。中国では「攒金豆(ザン・ジンドウ)」、つまり「金豆をコツコツ貯める」と呼ばれることもあります。
## なぜ1グラムの「金豆」が人気なのか
最大の理由は、少額から現物の金を購入できることです。
一般的な金地金には10グラム、50グラム、100グラムなどがあります。金価格が高騰すると、10グラムの地金でもかなりの金額になります。
それに対して金豆なら1グラム単位で購入できます。
中国では「毎月1粒買う」「ミルクティーや外食に使うお金を金豆に変える」といった感覚で、少額積立のように金を購入する若者が増えました。
## 「貯金(法定通貨)」ではなく「貯金(ゴールド) 」
面白いのは、中国の若者が金豆を単なるアクセサリーではなく、貯蓄の一種として考えていることです。
毎月現金を銀行口座に貯める代わりに、1グラムずつ金へ交換していきます。
小さな透明な瓶に金豆を入れ、少しずつ増えていく様子をSNSに投稿することも流行しました。
中国版TikTokの「抖音(Douyin)」や「小紅書(RED)」では、金豆を集める動画や投稿が広がり、投資とコレクションを組み合わせたような文化になりました。
つまり金豆には、
「少額投資+貯金+コレクション」
という3つの要素があります。
## 中国の若者が金を買うようになった背景
かつて中国では、金のアクセサリーは親や祖父母の世代が買うものというイメージがありました。
ところが近年、その状況が大きく変わっています。
中国黄金協会のデータを引用した中国メディアによると、2023年には25~34歳の若者が金消費の中心層となり、若年層の存在感が急速に高まりました。
背景には中国経済への不安があります。
不動産市場の低迷、株式市場の不安定さ、銀行預金金利の低下、就職への不安などから、若者の間で消費よりも貯蓄を優先する傾向が強まっています。2025年にはロイターも、中国の若者の間で節約と貯蓄志向が強まっていると報じています。
その受け皿の一つになったのがゴールドです。
株式のように企業が倒産することもなく、不動産のように大きな資金も必要ありません。「少額でも実物資産を持てる」という点が若者に受けています。
## 中国では金投資そのものが拡大している
金豆ブームは、単なるSNSの流行だけではありません。
中国では金宝飾品から、投資目的の金地金・金貨へ需要が大きく移っています。
中国黄金協会によると、2025年の中国の金消費量は約950トンでした。このうち金地金・金貨は約504トンと前年比35.1%増加し、初めて宝飾品需要を上回りました。
一方、宝飾品需要は約364トンまで減少しています。
つまり中国では、
「金を身につける」から「金を資産として持つ」
という変化が進んでいるのです。
金豆は、その流れを若者向けに小口化した商品ともいえます。
## 金豆は投資に適しているのか
ただし、金豆を投資商品として購入する場合には注意が必要です。
最も重要なのが、金価格に対する上乗せ価格(プレミアム)です。
1グラムの商品は、大型の金地金と比べて製造、包装、販売にかかるコストの割合が大きくなります。
例えば金そのものの価値が1グラム1,000元だったとしても、デザイン料や加工費を加えて1,100元で販売されていれば、購入した瞬間に10%程度のプレミアムを負担していることになります。
金価格が10%上昇して、ようやく購入価格付近になる可能性もあります。
## 売るときにも注意が必要
もう一つの問題が買い取りです。
中国金融信息網(経済情報ウェブサイト)は2025年、金豆の中には購入した店舗で買い取りに対応していない商品や、買い取り時に高い手数料がかかる商品があると報じています。
また、一部のネット販売商品では純度や重量の不正について注意が必要だと専門家が指摘しています。
投資目的なら、かわいい形やブランドより、
純度、重量、購入価格と金相場との差、買い取り条件、販売会社の信頼性
を確認することが重要です。
純粋な投資効率だけを考えるなら、大型の金地金や金ETFの方がコストを抑えられる場合があります。
## 金豆は「現物版の純金積立」
金豆の仕組みを日本人に分かりやすく説明すると、現物版の純金積立に近いものです。
純金積立では、毎月一定額を支払って少しずつ金を購入します。
金豆では、毎月1グラムなど自分で決めた量の現物金を購入し、自宅などで保管します。
金価格が高いときには少なく、価格が安いときには多く購入するなど、自分で調整することもできます。
しかも実際に金が手元に増えていくため、「貯めている実感」が強いことも若者に人気となった理由でしょう。
利上げ・利下げとは?中央銀行の金利操作が経済や株・為替に与える影響を初心者向けに解説
ニュースで毎日飛び交う「アメリカが利下げをするか」「日銀が利上げに踏み切るか」という話題。
なぜ、金利(きんり)の上がり下がりだけで世界中の投資家が一喜一憂し、株価が暴落したり為替が大きく動いたりするのだろうか。
一言で言えば、中央銀行が操作する政策金利は、経済という名の車をコントロールするための「アクセル」と「ブレーキ」だからだ。
世の中のお金は、銀行を通じて血液のように企業や個人の間を巡っている。中央銀行が金利を操作するということは、この「お金を借りるためのコスト(利息)」を変えることだ。
コストが安くなれば(利下げ)お金は勢いよく流れ(アクセル)、コストが高くなれば(利上げ)お金の流れは止まる(ブレーキ)。このシンプルな仕組みが、世の中のすべての経済活動の土台となっている。
## なぜ利下げをするのか
「利下げ(金利を下げること)」は、経済が冷え込んで不景気になった時に踏む「アクセル」である。
モノが売れず、企業が儲からず、人々の給料が下がる不景気を放置すると、失業者が溢れて社会が混乱してしまう。そこで中央銀行は、世の中にもっとお金を回して活気づけるために金利を下げる。
金利が下がると、企業は銀行からお金を借りやすくなる。借りたお金で新しい工場を建てたり、システムを開発したり、人を雇ったりする。
個人も、住宅ローンや自動車ローンの金利が安くなるため、「今なら金利が安いから家を買おう」と高額な消費に踏み切る。こうしてお金が世の中に勢いよく回り始め、景気が回復していく。
## 利下げによる相場(株・為替・金)への影響
株価:
大きく上がりやすい。企業や個人が低コストでお金を借りやすくなる上、預金しても利息がほとんどつかないため、人々が「お金を増やそう」と株式市場に資金を移すからだ。
為替:
下がりやすい(通貨安)。たとえばアメリカが利下げをすれば、「ドルを持っていても利息がつかない」ため、投資家はドルを売って他の金利の高い通貨を買おうとする。
金(ゴールド):
上がりやすい。現金(ドルなど)を持っていても利息がつかないため、それなら「世界共通の実物資産」である金を持っておこうという需要が高まる。
## なぜ利上げをするのか?
利下げのアクセルを踏みっぱなしにしていると、世の中にお金が溢れかえる。すると、ハンバーガーなどの値段が値上がりするようになり、人々の生活が苦しくなる。これを止めるために、中央銀行は金利を引き上げて経済を意図的に冷やすのだ。
先進国の中央銀行は前年比で2%のインフレ率を目標にしている。ここで言うインフレ率は変動が大きいエネルギー価格と食品価格を除いたインフレ率だ。2%を大きく超えるようだと中央銀行は利上げに走る。
## 利上げで経済に何が起こるか?
金利が上がると、企業はお金を借りるのが怖くなる(返済する利息が膨大になるため)。例えば金利が高くなると新しいプロジェクトは中止され、採用はストップし、事業が縮小される可能性がある。
個人も「ローンが高すぎるから家を買うのはやめよう」と消費を我慢し、「銀行に預けているだけで高い利息がもらえるなら、無駄遣いせずに貯金しよう」と考えるようになる。こうして世の中からお金の流れが消え、需要が減ることで、急騰していた物価が落ち着いていく。
## 利上げによる相場(株・為替・金)への影響
株価:
下がりやすい。企業が借金しにくくなり業績が悪化する上、投資家が「リスクのある株を買わなくても、銀行に預けるだけで安全に高い利息がもらえる」などと考えて株を売ってしまう可能性がある。
為替:
上がりやすい(通貨高)。たとえばアメリカが利上げをすれば、「ドルを持っているだけで高い利息がもらえる」ため、世界中から資金がドルに集まる。
金(ゴールド):
下がりやすい。金には「利息がつかない」という最大の弱点がある。金利が高い世界では、利息を生まない金を持っているのは機会損失になるため、金は売られて現金(ドル)が買われやすくなる。
## まとめ:投資は「中央銀行と戦うな」
経済は常に「不景気だから利下げ(アクセル)をして景気を刺激する」→「景気が良くなりすぎてインフレになったから利上げ(ブレーキ)で冷やす」→不景気になり利下げ.....というサイクルを繰り返している。
アメリカの中央銀行(FRB)がこれからアクセルを踏もうとしているのか、それとも強烈なブレーキを踏もうとしているのか。これを見極めることこそが、すべての投資の第一歩だ。
金相場が200日移動平均線を下回る!トレンド転換の危険信号
金相場のテクニカル分析において、最も重視される指標のひとつが「200日移動平均線」だ。
過去200営業日の終値を平均して算出するこの線は、短期的な値動きのノイズを取り除き、相場の長期的なトレンドの方向性を映し出す指標として、機関投資家からデイトレーダーまで幅広く参照されている。
## なぜ200日移動平均線が「重要」とされるのか
200日移動平均線が重視される理由は、その計算期間の長さにある。日々の値動きには、経済指標の発表や地政学リスクのニュースなど、一時的な要因による上下動がつきものだ。
しかし200営業日という長い期間で平均を取ることで、こうした短期的な変動が平均化され、相場の「地に足のついた」トレンドが浮かび上がってくる。
一般的な見方として、価格が200日移動平均線を上回っている状態は「上昇トレンド」、下回っている状態は「下降トレンド」と判断される。
さらに、価格が200日移動平均線を上から下へ突き抜ける(売りシグナル)局面では、投機筋やアルゴリズム取引による売りが加速しやすく、逆に下から上へ抜ける局面では買いが集まりやすいとされる。
つまり200日移動平均線は、単なる過去の平均値というだけでなく、多くの市場参加者が意識することで「自己実現的」に相場を動かす節目としての性格も持っている。
## 現在の状況:実勢価格が移動平均線を下回る
現時点(2026年8月7日)で、金の200日移動平均線は4,400ドルの水準にある。これに対し、現在の金価格は4,280ドルと、移動平均線を約120ドル、率にして3%弱下回って推移している。
これは、金相場が過去1年弱の平均的な水準と比べて、やや弱含みの局面にあることを示している。テクニカル分析の教科書的な解釈に従えば、価格が移動平均線の下に位置している状態は、短期的には下降トレンドないし調整局面にあるとみなされやすい。
特に、200日という長期の移動平均線を明確に下回る展開は、単なる一時的な押し目ではなく、より構造的なトレンド転換のシグナルとして警戒されることが多い。
## 移動平均線が果たす「心理的な節目」としての役割
興味深いのは、こうした移動平均線が単なる後追いの統計値にとどまらず、実際の売買行動そのものに影響を与える点だ。
多くのトレーダーやアルゴリズムが200日移動平均線を売買シグナルの一つとして組み込んでいるため、価格がこの線に接近すると、そこが実際の攻防ライン(サポートやレジスタンス)として機能しやすくなる。
現在のように価格が移動平均線を下回った状態が続くと、この4,400ドル近辺は「上値抵抗(レジスタンス)」として意識されやすくなる。相場が反発してこの水準に近づいた際に、戻り売りが出やすくなるという見方だ。
逆に、価格がこのレジスタンスを明確に上回って推移するようになれば、下降トレンドからの転換を示すシグナルとして評価される可能性がある。
## 今後の注目点
200日移動平均線そのものは日々の値動きに応じて緩やかに変化していく。金価格が現在の4,280ドル近辺で低迷を続ければ、移動平均線自体も徐々に切り下がっていくため、両者の乖離幅がどう変化していくかも合わせて見ておく必要がある。
金価格が移動平均線を再び上回るかどうか、あるいは下回ったまま推移が続くかは、短期的な需給要因(実物需要、ETFフローなど)だけでなく、米金融政策の先行き、地政学リスク、ドルの動向といったマクロ要因にも左右される。
テクニカルな節目である200日移動平均線の動向は、これらファンダメンタルズ要因と合わせて、今後の金相場のトレンドを見極める上で重要な参考材料となりそうだ。
【EV普及の隠れた主役】電気自動車に「銀」が不可欠な理由
電気自動車(EV)の普及によって最も恩恵を受ける貴金属は、実は銀かもしれない。
銀は地味な存在だ。金のような華やかさもなければ、プラチナのような高級感もない。
しかし銀には、他のどの金属にも負けない特性がある。すべての金属の中で、最も電気を通しやすく、最も熱を伝えやすい。電気を流すことにかけて、銀の右に出る金属はこの世に存在しない。
電気自動車とは、その名の通り電気で動く機械だ。電気を効率よく伝え、制御することが性能の根幹を成す。そこに、最高の電気伝導体である銀が深く関わっている。
## ガソリン車と比べてどのくらい多いのか
従来のガソリン車にも銀は使われている。車の中にはたくさんの電気回路があり、スイッチやセンサーの接点部分、リアウインドウの曇り止めヒーターなどに銀が入っている。1台あたりおよそ15〜28グラムだ。
これに対して、電気自動車に使われる銀の量はおよそ25〜50グラム。車種やメーカーによって差はあるが、ガソリン車のおよそ1.5倍から2倍の銀が使われている。
1台あたり10〜20グラムの差。小さく思えるかもしれない。しかし世界の自動車生産台数は年間約8,000万台だ。EVの比率が高まれば、この差が年間数百トン規模の需要増となって銀市場に跳ね返ってくる。
## 電気自動車のどこに銀が使われているのか
具体的にどこに銀が入っているのか。なるべくわかりやすく説明してみたい。
電気の「交差点」に使われている
車の中には、電気の通り道が何百本もある。その通り道が合流したり分岐したりする「交差点」にあたるのが、スイッチやリレーと呼ばれる部品だ。ここには電気が繰り返しオン・オフされるため、火花が飛んだり高温になったりする。普通の金属だとこの過酷な環境で表面が錆びて劣化し、やがて電気が通りにくくなる。
銀はこの問題に強い。銀の表面が多少酸化しても電気はちゃんと通る。だから何万回もスイッチを入れたり切ったりしても、性能が落ちにくい。電気自動車にはガソリン車よりもはるかに多くの電気スイッチがあるため、使われる銀の量も増える。
バッテリーの電力を変換する装置に使われている
電気自動車のバッテリーに蓄えられた電気は、そのままではモーターを効率よく回せない。間に「インバーター」という変換装置が入って、電気の形を整える。いわばバッテリーとモーターの間の通訳のような装置だ。
このインバーターの中には電気を高速で切り替える半導体チップが入っていて、大量の熱が出る。この熱を素早く逃がさないとチップが壊れてしまう。そこで、チップと冷却部品をくっつける接着剤のような材料に銀が使われている。銀は熱を伝える能力がすべての金属の中で最高なので、チップの熱を最も効率よく逃がすことができるのだ。
バッテリーのセル同士をつなぐ部分に使われている
電気自動車のバッテリーは、小さな電池(セル)が数千個つながってできている。このセル同士を接合する際に、銀を含んだ「ろう材」(金属のりのようなもの)が使われることがある。高温でも溶けにくく、電気をしっかり通すことが求められる部分だからだ。
モーターの接合部にも使われている
電動モーターの内部で銅線同士をつなぐ部分にも、銀入りのろう材が使われている。モーターは高温になるので、普通のはんだでは溶けてしまう危険がある。銀系のろう材なら高温に耐えながらしっかり電気を通せる。
## 充電器にも銀が入っている
電気自動車そのものだけでなく、充電するための設備にも銀が使われている。
急速充電器は非常に大きな電流を流す装置であり、内部のスイッチやコネクター部分には、大電流に耐えられる銀系の接点材料が使われている。家庭用の充電器にも、程度の差はあれ銀が入っている。
世界中で充電スタンドの設置が急ピッチで進んでいることを考えると、充電インフラの拡大は車そのものとは別のルートから銀の需要を押し上げることになる。
## なぜ銅ではだめなのか
「電気を通すなら銅でいいのでは」という疑問はもっともだ。実際、電気自動車の配線やモーターの巻線には大量の銅が使われている。
しかし、銅ではだめな場面がある。
銅は空気中で酸化しやすい。表面に酸化銅の膜ができると、電気を通しにくくなる。だからスイッチの接点のように何万回もオン・オフを繰り返す部分に銅を使うと、すぐに性能が落ちてしまう。銀なら表面が酸化しても電気を通す性質が保たれるので、長期間安定して使い続けられる。
また、半導体チップの接合のように、ごく小さな面積で最大限の性能を発揮しなければならない場所では、「最高の伝導体」である銀を使うことで全体の効率と寿命が大きく変わる。
わかりやすく言えば、電線のような「大通り」には銅が使われ、スイッチや半導体の接合部のような「重要な交差点」には銀が使われている。大量に使う部分は銅で十分だが、性能と信頼性が極限まで求められる要所には銀でなければならないのだ。
## 太陽光パネルとの二重の追い風
銀にとって嬉しいことに、EVだけが追い風ではない。EVを充電するための電力を生み出す太陽光パネルにも、銀がたっぷり使われている。
太陽光パネルの表面には、光から変換された電気を集めるための細い線が走っている。この線は銀のペーストで印刷されており、パネル1枚あたり約10〜20グラムの銀が使われている。太陽光パネルの設置量が増えれば、それだけ銀の消費も増える。
EVが増える → 充電用の電力需要が増える → 太陽光パネルの設置が進む → パネルにも銀が使われる。EVと再生可能エネルギーが同時に拡大することで、銀は両方から需要を受けるという二重の恩恵を得ている。この構図は他の貴金属にはない、銀ならではの強みだ。
## 銀の供給は追いつくのか
ここで一つ、銀の供給側にある面白い特徴を知っておきたい。
銀の約7割は、銅や鉛、亜鉛、金の鉱山で「ついでに」採れる副産物だ。銀だけを掘っている鉱山は全体の3割程度にすぎない。
これは何を意味するか。銀の需要がいくら増えても、銅鉱山などの生産量が増えなければ、副産物としての銀の供給も増えないということだ。銀だけを増産するのが構造的に難しいのである。
需要は増えるのに供給が簡単には増やせない。この構造が、長期的な銀の価格を支える要因になりうると考える人は多い。
## 手のひらに乗る量が世界を動かす
1台のEVに使われる銀はわずか数十グラム。手のひらに乗る程度の量だ。しかしこの数十グラムが年間数千万台のEVに積み重なれば、銀市場の景色は一変する。
金やプラチナが投資や宝飾の世界で華やかに語られる一方で、銀は工業の現場でひっそりと、しかし確実に不可欠な役割を果たしている。「すべての金属の中で最も電気を通す」という物理法則は、どんな技術革新によっても覆すことができない。電気で動く社会が広がる限り、銀の出番は増え続ける。
【金より希少なのに安い?】プラチナ価格の真相と希少性の真実
「プラチナは金よりも希少な貴金属である」
この事実は、貴金属業界では長年語られてきた常識だ。ところが実際の市場価格を見ると、近年のプラチナ(白金)はゴールド(金)を大きく下回る水準で取引されてきた。
## 産出量で見れば、プラチナは圧倒的に希少
まず地質学的な希少性という観点では、プラチナの優位性は揺るがない。
地球上での年間の金の生産量が3,700トンを超えるのに対し、プラチナの年間生産量はその20分の1以下の170トン弱にとどまる。
埋蔵量・産出量ベースで見れば、プラチナは金よりもはるかに稀少な金属であるという事実は、今も昔も変わっていない。
さらに供給地の偏りも際立っている。世界のプラチナ供給の約7割が南アフリカ一国に集中しており、同国では国営電力会社エスコムの慢性的な電力不足が、鉱山の生産量に直接影響を及ぼしてきた。
2025年2月には大雨の影響でアマンデルブルト鉱山(南アフリカ)が一部操業を停止するなど、自然災害リスクも供給の不安定要因となっている。
新規鉱山の開発には長い時間とコストがかかるため、短期間での供給増加も見込みにくい。世界プラチナ投資評議会(WPIC)は、少なくとも2029年まで需給の赤字基調(供給不足)が続くとの見通しを示している。
## なぜ市場価格は金より安いのか
希少性で勝るはずのプラチナが、なぜ長らく金より安く取引されてきたのか。
その答えは「需要の総量」にある。市場でどれだけ「欲しい」と思われているかという需要の厚みで、金がプラチナを圧倒してきたためだ。
背景には用途の違いがある。金は中央銀行や機関投資家、個人投資家が保有する「安全資産」としての需要が中心で、景気や地政学リスクへの不安が高まると買われやすい。
一方でプラチナは自動車の排ガス触媒や工業用途での使用比率が高く、景気動向や産業構造の変化に価格が左右されやすい性質を持つ。
また、2010年代半ば以降、電気自動車(EV)へのシフトが進み、「内燃機関車の減少=プラチナ需要の減少」という観測が強まったことで、プラチナ価格は長期的な低迷期に入った。
さらに自動車の排ガス触媒では、かつて安価だったパラジウムへの切り替えが進んだ時期もあり、2018年から2023年にかけてはパラジウム価格がプラチナを上回る状況が続いた。
市場規模自体も金市場に比べて小さいため、投資資金の流出入によって値動きが大きくなりやすいという特徴もある。
## 2026年、風向きが変わりつつある
もっとも、2025年から2026年にかけて状況は変化を見せている。当時、プラチナより価格が高かったパラジウムから再びプラチナへの切り替えが自動車業界で進み、プラチナ価格がパラジウムを上回る状態に戻った。
加えて、金価格の記録的な高騰を受け、中国では相対的に割安なプラチナ製宝飾品の人気が高まるなど、投資・実需の両面からプラチナに資金が流入している。
脱炭素化の流れも追い風だ。水素社会の実現に向けた燃料電池需要の拡大や、ハイブリッド車(HEV)の再評価が、プラチナの消費を下支えしている。
## 結論
地質学的な希少性(存在量・産出量)で見れば、プラチナが金を大きく上回る希少性を持つ、という評価は一貫して揺らいでいない。
市場価格・投資対象としての価値で見れば、需要の厚みの差から、現時点では金の方が高値で取引されている。
しかしプラチナには、金にはない実用的な強みもある。融点が高く腐食に強いこと、金よりも展延性(粘り強さ)に優れているため、ジュエリーでは爪の部分でダイヤモンドなどの宝石をしっかり留める用途に適していることなどだ。
単純な価格比較だけでなく、こうした素材特性も含めて「貴重さ」を捉え直す視点があってもよいだろう。
南アフリカの供給リスクや脱炭素需要の拡大が続く中、プラチナと金の価格差が今後どう変化していくのか、2026年後半以降の動向が注目される。
通貨の「Debasement」とゴールド|なぜ通貨価値の希薄化で金が買われるのか
最近の金融市場で、再び注目されている言葉がある。
それが、
「Currency Debasement(通貨のディベースメント)」
である。
日本語では、
通貨価値の希薄化
通貨価値の切り下げ
通貨の購買力低下
などと訳される。
そして、このDebasementへの警戒が強まると、資金が向かいやすい代表的な資産が、ゴールドである。
では、そもそもDebasementとは何なのか。
そして、なぜゴールドがその対策になるのだろうか。
## Debasementとは「通貨1単位の価値が薄くなること」
Debasementという言葉には、もともと非常に分かりやすい意味がある。
昔の貨幣は、金貨や銀貨だった。
例えば、ある金貨に10グラムの金が入っていたとする。
ところが財政が苦しくなった政府が、金10グラム入っていた金貨を回収し、次に発行する金貨には、金5グラム+別の金属5グラムしか入れなかったとする。
表面上は同じ「1枚の金貨」でも、
中に含まれる金の価値は半分になっている。
これが歴史的な意味での、
通貨のDebasement
である。
つまり、
通貨の枚数は同じでも、その中身の価値が薄くなる
ということだ。
## 現代の紙幣では「金属を減らす」必要がない
現在のドル、円、ユーロには金や銀は含まれていない。
では現代にDebasementは存在しないのかというと、そうではない。
現在ではDebasementという言葉は、より広い意味で使われる。
例えば、
通貨供給量の大幅な増加
大規模な財政赤字
中央銀行による国債購入
長期的なインフレ
などによって、
通貨1単位で買えるモノやサービスが減っていく状態を、広い意味で通貨価値の希薄化と呼ぶことがある。
例えば昔、100円でリンゴ1個買えたのに、数年後には、200円でリンゴ1個になったとする。
これはリンゴが変わったのではなく、100円という通貨の購買力が半分になったと見ることもできる。
これが現代のDebasementを理解する最も簡単な方法だ。
## Debasement=インフレではない
ここは少し注意が必要だ。
Debasementとインフレは関係しているが、
完全に同じものではない。
インフレとは、
モノやサービスの価格全体が継続的に上昇すること
である。
一方、Debasementはより広く、
通貨そのものの価値に対する信頼や購買力が薄れていく
という意味で使われる。
例えば物価上昇率がそれほど高くなくても、国家債務が急増し、将来的に政府がインフレや金融緩和によって実質的に債務負担を軽くするのではないか、
と投資家が考えれば、
通貨への信頼が弱まり、金が買われることがある。
つまりDebasementは、
現在のインフレ率だけではなく、将来の通貨価値への不安まで含んだ概念なのである。
## なぜ政府は通貨価値を薄める誘惑に駆られるのか
最大の理由は、政府の債務、借金である。
政府は多くの場合、自国通貨建てで国債を発行している。もしインフレが起きれば、将来返済すべき国債の「名目額」は変わらなくても、その「実質的な価値」は目減りする。
たとえば1,000兆円の借金があっても、通貨価値が半分になれば、実質的な返済負担も半分になったのと同じ効果が生まれる。
財政赤字が膨らみ、増税や歳出削減が政治的に困難な国ほど、この「インフレによる借金の帳消し」という誘惑は強くなる。
## 通貨の価値が薄まると、なぜゴールドが上がるのか
理由は非常にシンプルである。
ドルや円は、増やすことができる。
しかしゴールドは簡単には増やせない。
世界中の中央銀行が、
「明日から金を2倍に増やします」
と言ってもできない。
金は地中から採掘し、選鉱し、精錬しなければならない。
年間の新規供給量は限られている。
つまり、通貨の供給量は政策によって急増できる一方、金の供給量は急増できないという違いがある。
このため通貨の価値に対する不安が強まると、
「増刷できる通貨より、供給量が限られた金を持っておこう」
という需要が増える。
これがDebasement tradeの基本的な考え方である。
## 例:1オンス=2000ドルから4000ドルに上昇する意味
例えば、金1オンス=2,000ドルだったものが、4,000ドルになったとする。
一般的には、金の価値が2倍になったと表現する。
しかし逆から見ることもできる。
以前は2,000ドルで買えた1オンスの金を、今では4,000ドル出さないと買えない。
つまり、
金に対してドルの価値が半分になったとも考えられる。
これは金投資を理解するときに非常に重要な視点である。
ゴールドは、値上がりしている資産であると同時に、
「通貨価値を測る物差し」
として使われることがある。
## 「ゴールドが上がった」のか「通貨が下がった」のか
例えば金価格が、
ドル建てで上昇
円建てでも上昇
ユーロ建てでも上昇
している場合、
単なるドル安(による金価格の上昇)だけでは説明できない。
世界中の主要通貨に対して、
「ゴールドの相対価値が上昇している」
ことになる。
これは投資家が、紙の通貨よりも、供給量が限られ、誰の債務でもない資産を選好している可能性を示す。
特に各国が同時に、
大規模財政赤字
金融緩和
政府債務増加
を行う局面では、
「どの通貨を買うか」ではなく、「通貨そのものから一部逃げる」という発想が出てくる。
その代表がゴールドである。
## ゴールド最大の特徴は「誰の負債でもない」
ドル紙幣は、米国の通貨制度への信頼によって成り立っている。
国債は、政府が返済するという信用によって成り立っている。
銀行預金も、銀行への請求権である。
社債も、企業への請求権である。
ところが現物のゴールドには、返済する相手が存在しない。
1kgの金は、誰かが約束を守らなければ価値がなくなるものではない。
これがDebasementへの不安が高まったときに金が選ばれやすい大きな理由である。
## 中央銀行まで金を買っている
この動きは個人投資家だけのものではない。
世界の中央銀行も近年、金の購入を大幅に増やしている。
World Gold Councilによると、世界の中央銀行による金購入は直近4年間で平均年間1,000トンとなり、それ以前の10年間の平均約500トンから大きく増えた。
さらに2026年の中央銀行調査では、89%の回答者が、
「今後12カ月で世界の中央銀行の金保有量は増える」
と予想している。
また、
45%の中央銀行が、
自らの金保有量も増やす予定と回答した。
金を保有する理由としては、
危機時のパフォーマンス
ポートフォリオ分散
インフレヘッジ
地政学リスク対策
準備資産の分散
などが挙げられている。
つまり中央銀行自身も、
自国通貨や外国通貨だけに準備資産を集中させない方向へ動いている。
## 2026年8月に再び注目された「Debasement Trade」
2026年8月、この言葉が再び市場で強く意識された。
米国では政府債務が40兆ドル規模に達し、財政赤字への警戒から長期国債利回りが上昇。
その後、米財務省が10~30年債の買い戻し額を40億ドルへ倍増すると発表した。
すると長期金利が低下し、ドルが売られた。
ロイターは8月20日、財政とインフレへの懸念から、
金とビットコインへ資金が向かう「debasement trade」
が発生したと伝えている。
ここで市場が警戒したのは、
「財務省が40億ドル買ったから米国債市場、ドルが崩壊する」
という単純な話ではない。
より大きな問題は、
巨大な国家債務を抱える米国が、長期金利の上昇をどこまで容認できるのか
ということである。
高金利を続ければ、
政府の利払い費が増える。
住宅ローンも高くなる。
企業の借入金利も上昇する。
景気も悪化しやすい。
しかし金利を下げれば、
インフレやドル安を招く可能性がある。
つまり、
インフレを抑えるためには高金利が必要
なのに、
巨額の借金を維持するには高金利が苦しい
という矛盾が生まれる。
この状況がDebasementへの警戒につながる。
## 「高金利=ゴールド下落」とは限らなくなってきた
通常、金利が高くなるとゴールドには逆風になる。
金には利息がないからだ。
例えば、米国債5%なら、利息を受け取れる米国債の方が魅力的に見える。
しかし問題は、
なぜ直近の30年の米国債金利が5%になっているのか
である。
経済が強く、FRBが景気を抑えるために金利を上げているなら、ゴールドにはマイナスになりやすい。
一方、
政府債務が増えすぎ、投資家が国債を買うために高い利回りを要求しているなら、話は違う。
BISの2026年研究でも、財政持続性への懸念が高まると、投資家が政府債券から離れ、国債利回りに追加的なリスクプレミアムが乗る「fiscal risk shock」が起こり得ることが示されている。
この場合、
国債価格下落(利回り上昇)とゴールド上昇が同時に起こることもある。
つまり、
ゴールド投資では「金利の高さ」だけでなく「なぜ金利が高いのか」を見る必要がある。
## ゴールドは「儲ける資産」というより「通貨の保険」
ゴールドの役割を考えるとき、
株のように利益成長を見るのとは少し違う。
ゴールドは企業ではない。
売上もない。
利益もない。
配当もない。
だからこそ、
通貨や金融システムに問題がない時期には株よりかは地味な資産である。
しかし、
インフレ
財政不安
金融危機
通貨安
地政学リスク
などが重なると、
「誰の負債でもない」という性質が評価される。
2026年の中央銀行調査でも、危機時のパフォーマンス、インフレヘッジ、地政学リスク対策、準備資産分散が金保有の主要理由として挙げられている。
その意味でゴールドは、通貨価値の希薄化に対する保険と考えると分かりやすい。
## まとめ ゴールドが上がるのではなく、通貨が下がっている
Debasementとは、
通貨1単位の価値が徐々に薄くなっていくこと
である。
昔は金貨や銀貨に含まれる貴金属の量を減らすことで行われた。
現代では、
大規模な財政赤字
通貨供給拡大
インフレ
通貨への信頼低下
などを通じて、通貨の購買力が低下する現象を広い意味でDebasementと呼ぶことがある。
そしてゴールドは、
政府が発行できない
中央銀行が印刷できない
誰の負債でもない
という特徴を持つ。
だからこそ、通貨の価値に不安を感じる投資家や中央銀行が増えるほど、ゴールドへの需要が高まりやすい。
【供給の7割】南アフリカの電力危機がプラチナ価格を動かす理由
プラチナ価格は、自動車需要や世界景気だけでなく、最大産地である南アフリカの情勢に大きく左右されます。
世界のプラチナ鉱山生産の約7割は南アフリカに集中しています。そのため、南アフリカで供給障害が起きると、ほかの国が短期間で不足分を補うことは困難です。
## 電力不足で生産が止まる理由
南アフリカでは、国営電力会社エスコムの発電設備の老朽化や故障によって、計画停電や企業向けの電力制限が繰り返されてきました。
プラチナ鉱山では、地下の換気、排水ポンプ、作業員を運ぶ昇降機、鉱石の粉砕、選鉱、製錬などに大量の電力を使います。
電力が不足すると、採掘や鉱石処理を縮小します。特に製錬工程が止まると、鉱石を掘り出してもプラチナ地金として出荷できません。
このため、市場では供給不足への警戒が高まり、プラチナ価格が上昇しやすくなります。
しかし、電力不足で処理できなかった鉱石や半製品は、在庫として残りますが、電力供給が回復すれば、後からまとめて製錬され、市場に供給されます。
そのため、単なる製錬の遅れであれば、短期的には供給不安で価格が上昇しても、後に供給が増えることで長期的な影響は相殺されやすくなります。
## 電気料金の上昇も問題
南アフリカでは停電だけでなく、電気料金の上昇も鉱山会社を圧迫しています。
南アフリカ鉱業協議会によると、エネルギーを大量に使用する企業向けの電気料金は、2008年以降で900%以上上昇しています。
プラチナは、地下深くから大量の鉱石を掘り出し、砕き、濃縮し、高温で製錬しなければならないため、電気料金上昇の影響を強く受けます。
電力コストが上がると、採算の悪い鉱山では生産縮小や閉山、設備投資の延期が起こりやすくなります。これは短期的な停電よりも、長期的なプラチナ供給を減らす要因です。
【中国】主要銀行が個人向け金取引を停止!制度変更の真相と影響
2026年7月24日、中国の個人向け金取引市場で大きな制度変更が行われました。
中国最大の銀行である中国工商銀行と中国建設銀行が、7月24日の日終清算をもって、個人顧客を対象とする上海黄金交易所の貴金属代理取引サービスを終了したのです。
この出来事は
中国の銀行がペーパーゴールド取引を禁止し、現物金だけに限定した
と伝えられています。
方向性としては、レバレッジを使った短期的な金・銀取引から、現物金や積立型商品へ個人投資家を移す動きといえます。
しかし、厳密には「ペーパーゴールドだけが停止された」という説明は正確ではありません。
今回停止された商品には、証拠金を使って売買するレバレッジ型契約だけでなく、代金を全額支払って購入し、条件を満たせば現物を引き出せる金の現物契約も含まれているからです。
## 7月24日に何が停止されたのか
中国工商銀行は、2026年7月24日から個人向けの「上海黄金交易所貴金属競争売買代理業務」を停止しました。
対象となった主な商品は次のとおりです。
Au99.99
Au100g
Au99.95
PGC30g
Au(T+D)
mAu(T+D)
Ag(T+D)
Au(T+N1)
Au(T+N2)
中国建設銀行も同じ7月24日から、個人向け上海黄金交易所代理業務を閉鎖しました。
対象にはAu99.99、Au100g、PGC30gなどの現物契約と、Au(T+D)やAg(T+D)などの延期契約が含まれています。
つまり、7月24日を境に、個人がこれらの銀行を窓口として上海黄金交易所へ直接注文を出し、金や銀を売買する仕組みが終了したのです。
工商銀行は、サービス終了後には、既存顧客の売却、決済、現物引き出しなどの操作も制限されるとして、期限前にポジションを整理するよう求めました。
建設銀行は、期限後も現物在庫や延期契約を保有している顧客について、銀行側が在庫売却や強制決済を行う可能性があると明記しています。
## 「ペーパーゴールド」とは何か
一般にペーパーゴールドとは、金地金そのものを手元で保有するのではなく、金価格に連動する金融商品を売買する仕組みを指します。
銀行の口座上だけで金の残高を管理する取引、証拠金型の金取引、先物などが一般的には広い意味でペーパーゴールドと呼ばれます。
今回特に問題視されたのが、Au(T+D)などの延期交収契約です。
(※ 延期交収契約とは、主に中国の金融・商品取引(上海黄金交易所など)で使われる、固定した満期日を設けず、買主や売主の判断で決済(実物受渡し)を先送りできる特殊な現物取引の仕組み)
延期契約では、一定の証拠金を預けることで、実際に保有する資金より大きな金額を売買できます。また、金価格の上昇を予想して買うだけでなく、下落を予想して売りから入ることもできます。
そのため、経済的な性質は先物取引に近く、価格が予想と反対方向に動くと、追加証拠金や強制決済が発生する危険があります。
一方、Au99.99やAu100gは、基本的には代金を全額支払う現物取引です。
取引後に金の所有権が移り、所定の条件を満たせば上海黄金交易所の指定倉庫から金地金を引き出すこともできます。
したがって、今回の措置は、
レバレッジ型ペーパーゴールドだけを禁止した
のではなく、
銀行を通じて個人が上海黄金交易所で行っていた現物取引と延期取引の両方を終了した
というのが正確です。
## 突然停止されたわけではない
今回の取引終了は、7月24日に突然決まったものではありません。
中国の銀行は、数年前から個人向け貴金属取引の新規口座開設や新規ポジションを段階的に制限してきました。
2026年に入ると、各銀行はさらに証拠金比率を大幅に引き上げました。
例えば中国建設銀行は、個人向け延期契約の証拠金比率を、
2026年1月29日:44%から60%
2月4日:60%から80%
2月27日:80%から100%
6月4日:100%から120%
へ段階的に引き上げました。
中国工商銀行も7月9日から、Au(T+D)、mAu(T+D)、Ag(T+D)などの標準証拠金比率を140%から190%へ引き上げました。強制決済の基準も120%から170%へ引き上げています。
証拠金比率が100%を超えるということは、契約金額以上の資金を預けなければ取引できないということです。
もはや「少ない資金で大きな取引をする」というレバレッジ効果は消え、通常の現物取引よりも資金効率が悪い状態になっていました。
流れを整理すると、
新規顧客の受付停止
新規建玉の制限
証拠金比率の引き上げ
既存ポジションの整理要請
個人向け代理サービスの全面終了
という段階的な撤退でした。
## 中国の銀行全体が7月24日に一斉停止したわけではない
7月24日は、中国工商銀行と中国建設銀行にとって大きな節目でした。
ただし、中国のすべての銀行が同じ日に一斉に取引を停止したわけではありません。
郵政儲蓄銀行、平安銀行、広発銀行などは、それ以前から個人向け上海黄金交易所代理業務を縮小または終了していました。
招商銀行は7月27日以降に関連サービスを終了する方針を示し、中信銀行は7月31日の日終清算から個人向け延期取引を停止すると発表しています。
したがって、これは単独の銀行による判断というより、中国の銀行業界全体が個人向けの高リスクな貴金属取引から撤退している流れと見るべきです。
ただし、中国人民銀行や上海黄金交易所が「中国国民によるすべての金取引を禁止する」と発表したわけではありません。
各銀行が公開している公式理由は、貴金属市場のリスク管理と投資家保護です。
## なぜ銀行は取引をやめたのか
最大の理由は、金と銀の価格変動が激しくなり、個人顧客の損失や強制決済のリスクが高まったことです。
レバレッジ取引では、価格が数%動いただけでも、投資家の損失は大きくなります。
急激な価格変動時には、
追加証拠金を入金できない
希望した価格で決済できない
強制決済によって大きな損失が出る
銀行と顧客の間で紛争が発生する
といった問題が起こりやすくなります。
銀行にとっても、システム管理、顧客への説明、未回収金、訴訟や苦情対応などの負担が大きくなります。
そのため、中国の銀行は、短期売買やレバレッジ取引よりも、仕組みが単純で強制決済のない商品へ個人顧客を誘導する方向へ動いています。
## 純金積み立てなどは健在
銀行経由の上海黄金交易所取引が停止されても、中国の個人が金を購入できなくなったわけではありません。
銀行が販売する金地金や記念金貨などの現物商品は、引き続き利用できます。
また、一定額ずつ金を購入する金積立商品も継続しています。
さらに、証券市場を通じた金ETF(現物の裏付けがある)も取引可能です。
今後も利用可能な主な選択肢は、
現物の金地金や金貨
銀行の金積立
金ETF
金関連投資信託
宝飾品
などです。
したがってレバレッジや短期売買を中心とした取引から、無レバレッジで現物に近い金投資や長期積立へ重点を移したと考えるべきです。
## 金価格にはどのような影響があるのか
短期的には、銀行経由で上海黄金交易所を利用していた個人投資家がポジションを整理するため、売却や決済が増える可能性があります。
特に期限前には、買いポジションの決済、現物在庫の売却、証拠金口座からの資金引き出しが集中しやすくなります。
ただし、必ず金価格が下落するとは限りません。
売りポジションを保有していた投資家も決済するため、買い戻しが発生します。
また、現物契約を保有していた顧客は、売却する代わりに金地金を引き出すこともできます。
さらに、上海黄金交易所における法人取引、金鉱山会社、宝飾企業、機関投資家、中央銀行の取引まで停止されたわけではありません。
今回の措置は、中国全体の金需要を禁止する政策ではなく、個人向けレバレッジ型の銀行代理取引のリスクを縮小する措置です。
中長期的には、個人資金がレバレッジ取引から、現物金、金積立、金ETFなどへ移る可能性があります。
その場合、短期的な投機売買は減る一方、現物に近い形で金を長期保有する需要は残ることになります。
## 中国は金を否定したのではない
ですので今回の措置を、
中国政府が
金価格の暴落を予想している
中国が国民の金購入を禁止した
中国人は今後金を買えなくなる
と解釈するのは誤りです。
停止されたのは、銀行を代理人として個人が上海黄金交易所で売買を行う一部のサービスです。
銀行の実物金販売、金積立、ETF、宝飾品市場、法人の上海黄金交易所取引、中国人民銀行の金準備政策は、それぞれ別の仕組みです。
中国の銀行が避けようとしているのは、金そのものではありません。
繰り返しますが、一般の個人顧客がレバレッジを使って短期売買し、強制決済や巨額損失に陥るリスクの回避策です。
テザー社の金保有146トン超!国家級の買い手となった
世界最大のステーブルコイン「USDT」を発行するTetherが、国家の中央銀行に匹敵する規模の金保有者になっています。
Tetherが2026年7月31日に発表した準備金証明によると、2026年第2四半期に新たに14トンの現物金を購入し、6月末時点の金保有量は146トンを超えました。
これは単なる暗号資産企業の投資という規模ではありません。保有量だけを比較すれば、世界の中央銀行の中でも30位前後に入る水準であり、文字どおり「国家級の金保有量」に達しています。
## Tetherの金保有量は146トン超
Tetherの2026年第2四半期の準備金証明書によると、同社が第2四半期中に14トンの現物金を追加したことが明らかになりました。
2026年3月末時点のUSDT準備金に含まれる金は約132トンだったため、6月末には146トンを超えた計算になります。
## どの国の中央銀行に匹敵するのか
World Gold Councilは、各国の中央銀行や公的機関が保有する金準備を、IMFなどの統計をもとに公表しています。
2026年3月時点では、
リビア:約147トン
フィリピン:約134トン
スウェーデン:約126トン
となっています。
したがって、Tetherの146トン超という金保有量は、リビア中央銀行とほぼ同じ規模で、フィリピンやスウェーデンの中央銀行を上回る水準です。
一方、アルジェリア、イラク、ブラジルなどの約170トン台や、シンガポールの約197トンには届いていません。
正確な順位は各国の月次の購入量によって変動しますが、Tetherを一つの国として数えた場合、世界30位前後の公的金保有国に匹敵すると考えることができます。
## Tetherはなぜ大量の金を買えるのか
Tetherが大量の金を購入できる最大の理由は、USDTの巨大な発行残高と、それによって生まれる運用収益です。
USDTは、基本的に1USDTの価値が1ドルになるよう設計されたステーブルコインです。
利用者がドルなどを支払ってUSDTを取得すると、Tetherは受け取った資金を米国短期国債、現金同等物、レポ取引、金、ビットコインなどで運用します。
特に米国短期国債は利息を生みます。USDTの保有者には通常、その利息が直接支払われないため、国債から得られる利息収入の多くがTetherの利益になります。
2026年第2四半期末時点で、Tetherの総資産は約1,877億5,000万ドル、総負債は約1,836億4,000万ドルでした。資産が負債を約41億1,000万ドル上回り、第2四半期の純営業利益は約15億ドルに達しました。
つまりTetherは、巨大なUSDT準備金を米国債などで運用し、そこから生じる利益や余剰資金の一部を金に振り向けています。
## 金はUSDT準備金の一部
ここで注意したいのは、USDTが金だけで裏付けられているわけではないという点です。
USDT準備金の中心は、依然として米国短期国債やレポ取引など、流動性の高いドル建て資産です。金は準備金を分散するための一部として保有されています。
この構造は、ある意味では中央銀行の外貨準備に似ています。
中央銀行も、外貨建て国債、銀行預金、現金、金などを組み合わせて準備資産を管理します。
Tetherも、流動性の高い米国債で日常的な償還に備えながら、金で通貨・地政学・インフレリスクを分散するという準備資産戦略を採用していると考えられます。
## XAUT用の金とは分けて考える必要がある
TetherはUSDTとは別に、「Tether Gold(XAUT)」という金連動型トークンも発行しています。
XAUTは、1トークンが1トロイオンスの現物金に対応する仕組みです。
2026年3月末時点で、XAUTの裏付けとして保管されていた現物金は70万7,747トロイオンス、重量では約22トンでした。
しかし、この約22トンはUSDTの準備金とは別です。
XAUTを裏付ける金はカストディアンがトークン保有者のために保管しており、金の所有権はTether社ではなく、XAUTのトークン保有者に帰属すると説明しています。
したがって、
USDT準備金の金146トン
+XAUTの裏付け金約22トン
=Tetherが自社資産として168トン所有している
と単純に合算するのは正確ではありません。
Tetherの事業全体が管理・関与する現物金という意味では160トンを大きく超えますが、自社のUSDT準備資産として保有している金は146トン超と整理する必要があります。
## 2025年には多くの中央銀行を上回る金を購入
Tetherが注目されているのは、保有量だけではありません。
金を購入するスピードも、多くの中央銀行を上回っています。
2025年第3四半期には約26トン、第4四半期には約27トンを購入しました。2025年全体では、ポーランドを除く大半の中央銀行を上回る規模の金購入者になったと報じられています。
さらに2026年第2四半期にも14トンを追加しました。
14トンという購入量は、世界全体の年間金鉱山生産約3,600トンと比べれば小さく見えます。しかし、単独の民間企業が1四半期に購入する量としては非常に大きく、金市場において無視できない存在になっています。
## なぜTetherは米国債だけでなく金を持つのか
Tetherが金を増やす背景には、主に四つの理由が考えられます。
第一は、準備金の分散です。
米国債は流動性と利回りに優れていますが、準備資産の大部分をドル建て資産だけに集中させれば、米国の金利政策、財政問題、制裁政策などの影響を強く受けます。
金は、特定の国家や企業の債務ではありません。国債のような発行体の信用リスクがなく、ドル資産とは異なる値動きをするため、準備金の分散先になります。
第二は、インフレや通貨価値低下への備えです。
法定通貨や国債は、インフレによって実質的な購買力が低下する可能性があります。金も価格変動はありますが、長期的な価値保存資産として中央銀行や機関投資家に保有されています。
第三は、地政学的リスクです。
外国に保有する外貨準備や国債は、制裁や資産凍結の対象になる可能性があります。物理的な金は保管場所によっては凍結のリスク(経済制裁)がありますが、自国で保管をすれば問題ありません。ですので、ドイツなどの先進国でもニューヨークなどから自国に金を持ち帰っているのです。
第四は、金のトークン化事業です。
TetherはXAUTを通じ、現物金とブロックチェーンを結びつける事業を拡大しています。2026年には金販売企業Gold.comへ1億5,000万ドルを出資し、XAUTと現物金の流通網を広げる方針を示しました。
つまりTetherにとって金は、単なる準備資産ではなく、今後の事業戦略そのものでもあります。
## Tetherの金購入が金相場に与える影響
Tetherの金保有量146トンは、米国や中国などの巨大中央銀行と比べれば小さい数字です。
しかし、重要なのは保有量よりも購入ペースです。
TetherのUSDT発行残高と利益が今後も拡大し、その一部を継続して金へ振り向ければ、Tetherは毎年数十トン単位の恒常的な金購入者になる可能性があります。
中央銀行需要に加えて、ステーブルコイン発行企業や暗号資産企業まで金を準備資産として保有し始めれば、金需要の構造そのものが変化します。
従来の金市場の主要な買い手は、
中央銀行
金ETF
機関投資家
宝飾品需要
個人の金地金・金貨需要
でした。
今後はここに、
ステーブルコインを支えるための民間準備金需要
が新たな買い手として加わる可能性があります。
中国最大の金ETF「華安黄金ETF」とは?仕組みや特徴を徹底解説
中国では、金地金や宝飾品を購入するだけでなく、証券口座を通じて金価格に投資する方法が広がっています。その代表的な商品が「華安黄金ETF」です。
## 華安黄金ETFの基本情報
華安黄金ETFの正式名称は「華安易富黄金交易型開放式証券投資基金」です。
証券コードは「518880」で、上海証券取引所に上場しています。基金契約の発効日は2013年7月18日、取引所への上場日は同年7月29日です。
運用会社は華安基金管理有限公司、資産の保管を担当する基金托管人は中国建設銀行です。取引通貨は人民元となっています。
華安基金の公式情報によると、2026年6月30日時点の純資産総額は約862億800万元、円で換算すると現時点で2兆円くらいです。
中国国内でも最大級の金ETFに成長しております。
## 華安黄金ETFは何に投資しているのか
華安黄金ETFは、金鉱山会社の株式や金先物を中心に運用するETFではありません。
ETF資産の大部分を金現物に投資しています。公式の商品概要では、金現物への投資比率を基金資産の90%以上とすることが定められています。中国国内の金現物価格にできるだけ正確に連動することを目標としています。
## 100口で約1グラムの金に相当する
華安黄金ETFでは、一般に100口がおおむね金1グラムに相当するように設計されています。
現物と交換できる最低単位は10万口、金重量では1,000グラムであり、指定された取扱機関を通じて手続きする必要があります。
一般の個人投資家は、金地金への交換を目的とするよりも、上海証券取引所でETFを売買し、人民元建て金価格の値動きに投資する商品として利用することになります。
## 人民元建ての金価格に連動する
華安黄金ETFを理解するうえで重要なのは、ドル建ての国際金価格ではなく、人民元建ての中国国内金価格への連動を目指している点です。
人民元建て金価格は、主に次の要因によって変動します。
第一に、ロンドンやニューヨークを中心に形成されるドル建ての国際金価格です。
第二に、ドルと人民元の為替相場です。ドル建て金価格が変わらなくても、人民元がドルに対して下落すれば、人民元に換算した金価格は上昇しやすくなります。反対に人民元高が進めば、人民元建て金価格の上昇が抑えられることがあります。
第三に、中国国内の金需要と供給です。中国国内で金需要が急増すると、上海黄金交易所の価格が国際価格を上回る「上海プレミアム」が拡大する場合があります。
このため、華安黄金ETFと米国上場のSPDRゴールド・シェアなどを比較すると、同じ金に投資するETFであっても、短期的な値動きが完全には一致しません。
## 株式と同じように売買できる
華安黄金ETFは、上海証券取引所の取引時間中に、株式と同じように証券口座から売買できます。
中国本土の株式は通常、購入した当日に売却できないT+1取引ですが、華安黄金ETFの取引所取引にはT+0制度が採用されています。そのため、同じ取引日の中で購入と売却を行うことも可能です。
(※ T+0制度とは、証券取引の成立と同日中に資金や証券の受け渡し・決済を行う、または当日中に購入した銘柄を再売却できる仕組みです。)
また、華安黄金ETFには複数のマーケットメーカーが指定されています。2026年にも申万宏源証券、中国銀河証券、光大証券、中信建投証券などが主なマーケットメーカーとして追加・指定されています。
(※マーケットメーカーとは、金融市場で常に「売り」と「買い」の価格を提示し、取引の流動性を提供する証券会社や金融機関のことです。)
純資産規模が大きく、マーケットメーカーが存在することは、売買の成立を支える重要な要素です。ただし、市場が急変したときには買値と売値の差であるスプレッドが広がる可能性があります。
## 華安黄金ETFの費用
華安黄金ETFの管理費は年0.50%、托管費は年0.10%です。
托管費とは、資産の保管や決済などを担当する中国建設銀行に支払われる費用です。これらに監査費用、情報開示費用、取引関連費用などを加えた基金運営の総合費用率は、公式資料では年0.67%と試算されています。
例えば、金価格が1年間まったく変動しなかった場合でも、費用が資産から差し引かれるため、ETFの純資産価値は理論上わずかに低下します。
## 金の貸し出しによる収益もある
華安黄金ETFの特徴の一つが、保有する金を利用した金リース、つまり金の貸し出しです。
基金が保有する金を金融機関などに貸し出し、その対価として金利に相当する収益を受け取る仕組みです。華安基金によると、基金の設定から2024年末までに、金リースによって累計1億8,800万元を超える収益が基金に上乗せされました。
金そのものは利息や配当を生みませんが、金リースを利用することで一定の追加収益を得られる可能性があります。
## 現物の金を買う場合との違い
金地金や金貨を購入する場合、購入価格には販売会社の手数料や加工費が含まれます。売却するときには、販売価格と買取価格の差も発生します。
さらに、自宅で保管する場合には盗難や紛失のリスクがあり、貸金庫を利用すれば保管費用が必要です。
華安黄金ETFの場合、金地金を自分で保管する必要がなく、証券取引所で市場価格を確認しながら売買できます。少額から投資でき、現物の金より換金しやすい点が大きな利点です。
一方、ETFは現物と交換できるとは言え、個人が金地金そのものを手元に保有しているわけではありません。金融システムから完全に切り離して金を保有したい人にとっては、現物の金地金の方が目的に合う場合があります。
【WGC最新】2026年Q2金需要レポート|中央銀行買いが急回復
今回はWorld Gold Council(ワールド・ゴールド・カウンシル)が発表した「Gold Demand Trends: Q2 2026」のレポートの概要です。
(※ ワールド・ゴールド・カウンシルは1987年に世界の主要な金鉱山会社によって設立された国際的な非営利の業界団体です。イギリスのロンドンに本社を置き、金の需要動向の調査などを目的とした活動を行っています。)
第2四半期(4月から6月までの3か月)のLBMA金価格の平均は、1オンスあたり 4,506.29ドル でした。
過去最高を記録した第1四半期の平均価格 4,872.9ドルからは8%の下落となったものの、前年同期(2025年第2四半期)の平均価格 3,280.4ドルと比較すると 37%の大幅高 となっています。
第2四半期の「金供給量」は前年同期とほぼ同水準の1,269トン。 鉱山生産が2%増加した一方で、前期比での価格下落によりリサイクルの売却が減少し、リサイクル金は6%減少しました。
## 需要セクター別の動向
全体的な金需要(OTC含む)は第2四半期は1,269トンで、前年同期(2025年第2四半期)とほぼ変わらずでした。
上半期合計(1月から6月まで)では前年同期比2%増の2,522トンとなり、金額ベースでは過去最高となる3,800億ドルを記録しました。
中央銀行の買い越し:第1四半期に一時的な減速が見られましたが、第2四半期には289トンを購入。
過去4年間に見られた旺盛な買い意欲が戻ってきました。
投資需要:地金・金貨の投資は307トンと堅調を維持しましたが、去年の同期比の315.6トンと比べると少し減少しています。
一方、金ETFはアメリカの金利の高止まり観測、ドル高を背景に、売りに押される展開(マイナス45トン)となりました。
宝飾品需要:金価格の高騰とインフレによる購買力低下が重しとなり、需要量はパンデミック以降で最低の278トンまで落ち込みました。
しかし、金額ベースでの消費額は前年同期比14%増の400億ドルとなっており、消費者の「金」に対する支出意欲の高さが伺えます。
テクノロジー需要:去年の同期比で わずかに増加(80トン)しました。
## 今後の展望(下半期に向けて):
下半期も「投資需要」が成長の主な牽引役 になると予想され、特にアジア圏での買いやOTC(店頭取引)が市場をサポートすると見られています。
中央銀行も引き続き積極的な購入を続ける見通しですが、2025年の水準には届かない可能性があります。
宝飾品については、歴史的な金価格の高止まりが逆風となり、引き続き数量ベースでは厳しい状況が続く見込みです。
なぜ投資家は金を持たない?全資産の3%に見る金投資のリアル
世界中で金価格が注目され、中央銀行による金購入がニュースになっています。
金はすでに多くの投資家が保有し、投資先として十分に買い尽くされているように見えるかもしれません。
しかし、世界全体の金融資産から見ると、実際に金へ投資されている資金は驚くほど少ないのです。
World Gold Councilの2026年版「Gold Market Primer」によると、世界の金融資産は約320兆ドルに達します。
これに対し、個人や機関投資家が保有する投資用の金地金は約9兆ドルです。
世界の金融資産に占める金の割合は、わずか約3%にすぎません。
つまり、世界中の投資資金100ドルのうち、金に振り向けられているのは、平均するとわずか3ドル程度ということです。
## 世界の金すべてが投資対象ではない
これまで人類が採掘した金は、2025年末時点で約21万9,900トンと推計されています。
金価格で評価すると、その価値は約31兆ドルです。
しかし、この31兆ドルすべてが投資家の金融資産として保有されているわけではありません。
地上に存在する金の内訳は、おおよそ次のようになっています。
宝飾品:約44%
中央銀行などの公的準備:約18%
金地金・金貨:約21%
金ETF:約2%
機関投資家などの店頭取引による保有:約5%
工業用途など:約10%
世界に存在する金のうち、最も大きな割合を占めるのは宝飾品です。
一方、個人や機関投資家が投資目的で保有している金は、金地金、金貨、金ETF、店頭取引による保有分を合計した約9兆ドルです。
世界の金融資産に占める金の割合を計算する場合、宝飾品や中央銀行の金準備は除外されます。
## 金の保有比率は確かに低い
中国やインドを中心に、金の宝飾品、金地金、金貨を保有する人は世界中にいます。
また、各国の中央銀行も合計約3万8,700トンの金を保有しています。
しかし、株式や債券を中心とする現代の金融ポートフォリオにおいて、金の保有比率が非常に小さいことは確かです。
World Gold Councilの市場調査では、投資家の最大約30%が、金をまったく保有していない可能性が示されています。
金を保有している投資家でも、特に機関投資家の配分は小さい傾向があります。
年金基金、保険会社、投資信託などの巨大な資金の多くは、株式と債券を中心に運用されており、金への配分はゼロ、またはごくわずかです。
つまり、金は世界で広く知られた資産でありながら、金融ポートフォリオへの組み入れという意味では、依然として少数派なのです。
## 40年前は約14%だった
現在、世界の金融資産に占める投資用金の割合は約3%ですが、World Gold Councilによれば、約40年前には約14%だったと推計されています。
単純に比較すると、金の占める割合は5分の1近くまで低下しました。
これは、金そのものの価値が失われたからではありません。
その後、世界の株式市場と債券市場が急速に拡大したことが大きな理由です。
政府や企業は大量の債券を発行し、株式市場の時価総額も増加しました。年金、投資信託、ETF、プライベート資産など、新しい金融商品も急拡大しました。
その結果、金融資産全体の規模が金市場より速く膨張し、相対的に金の割合が低下したのです。
金価格が上昇していても、株式や債券の市場規模がそれ以上の速度で拡大すれば、世界の金融資産に占める金の比率は低いままになります。
## わずかな資金移動でも金市場には大きい
世界の金融資産が約320兆ドルあるとすれば、その1%だけでも約3.2兆ドルです。
仮に世界の投資家が、金への配分を現在の約3%から4%へ1ポイント引き上げようとすれば、単純計算では約3.2兆ドルもの追加資金が金市場へ向かうことになります。
これは金市場にとって極めて大きな金額です。
巨大な株式・債券市場からごく一部の資金が移動するだけで、金市場の需給や価格に大きな影響を与える可能性があります。
## 金は大量生産できない
金への資金流入が価格に影響しやすいもう一つの理由が、供給量の増え方です。
地上に存在する金は約21万9,900トンですが、新たな鉱山生産によって増える量は年間約3600トンにすぎません。
価格が上昇したからといって、すぐに大量の金を増産することはできません。
新しい金鉱山を発見し、埋蔵量を調査し、許認可を取得し、設備を建設して生産を始めるまでには、長い年月と巨額の資金が必要です。
一方、株式や債券は企業や政府が新たに発行できます。
法定通貨や銀行預金も、金融政策、政府支出、銀行融資などを通じて増加します。
金は毎年新たに採掘されるため総量が完全に固定されているわけではありませんが、金融資産や通貨と比べて供給の増加が緩やかな資産です。
そのため、需要が急増した場合、供給量の増加ではなく、価格上昇によって需給が調整されやすくなります。
## 中央銀行はすでに金の比率を高めている
民間投資家の金保有比率が約3%にとどまる一方、中央銀行にとって金は重要な準備資産になっています。
2025年末時点で、中央銀行や公的機関は約3万8,700トン、金額にして約5兆ドルの金を保有していました。
2025年第3四半期時点では、金は世界の配分済み外貨準備などの約26%を占めていました。
IMFによると先進国の中央銀行では準備資産に占める金の割合が平均約20%であるのに対し、新興国では約5%です。
(※ World Gold Councilよると先進国 30%、新興国 15%)
つまり、政府や中央銀行は準備資産のかなりの部分を金で保有している一方、民間投資家の金融資産に占める金は約3%にすぎません。
この差は、金が国家の準備資産として重視されながら、一般的な投資ポートフォリオでは依然として過小配分になっている可能性を示しています。
## なぜ投資家は金を持たないのか
金の保有比率が低い理由はいくつかあります。
第一に、金は利息や配当を生みません。
株式を保有すれば配当を受け取れる可能性があり、債券を保有すれば利息が支払われます。
しかし、金そのものから定期的な収益は発生しません。
実質金利が高い局面では、利息を受け取れる国債などと比べて、金の魅力が低下しやすくなります。
第二に、長期間にわたって株式と債券を中心とする運用が標準とされてきたことです。
年金基金や資産運用会社では、株式60%、債券40%などのモデルが広く使われ、金を保有しないことも珍しくありませんでした。
第三に、金は価格変動が大きく、保管や売買にもコストがかかるという認識があります。
現物金であれば保管場所や盗難対策が必要です。保管料が多くなればロンドンやニューヨークなどの金庫に預ける必要が出てくる。
第四に、金融市場が安定し、株式や債券が好調な時期には、保険的な資産である金の必要性が意識されにくくなることです。
金は危機が起きてから注目されやすい一方、危機が起きる前には保有されにくいという性質があります。
## 3%だから必ず値上がりするわけではない
世界の金融資産に占める金の割合が低いことは、金価格にとって潜在的な上昇余地を示す材料の一つです。
しかし、保有比率が低いという事実だけで、金価格が必ず上昇するわけではありません。
金価格は、実質金利、ドル相場、インフレ、地政学的リスク、中央銀行の購入、ETFへの資金流入、投資家心理などに左右されます。
実質金利が上昇し、ドルが強くなれば、世界の金融資産が増えていても金価格が下落することがあります。
また、株式市場への期待が強く、金融システムへの不安が小さい局面では、投資家が金への配分を増やさない可能性もあります。
したがって、「金の割合が3%しかないから必ず急騰する」と考えるのは単純すぎます。
重要なのは投資家が金への配分を変えるきっかけが発生するかどうかです。
## 金への資金移動を引き起こす要因
金への配分が増える可能性があるのは、次のような局面です。
インフレが長期化し、法定通貨の購買力低下が意識されたとき。
政府債務や財政赤字が増加し、国債や通貨への信用不安が高まったとき。
実質金利が低下し、利息を生まない金を保有する機会費用が下がったとき。
地政学的対立や金融制裁によって、特定国の通貨や国債に依存するリスクが意識されたとき。
株式と債券が同時に下落し、従来の分散投資が機能しにくくなったとき。
このような環境で、投資家が金融資産のごく一部を金へ移すだけでも、金市場には大きな資金流入となる可能性があります。
【価格変動は金の2倍?】銀投資のリスクと知っておくべき注意点
銀は、金と同じ貴金属でありながら、電子機器、太陽光発電、自動車、医療機器などにも使われる工業用金属です。
金より価格が安いため購入しやすく、金価格が上昇すると銀も大きく値上がりすることがあります。
しかし、上昇幅が大きい一方で、下落するときの勢いも強いのが銀投資の特徴です。
## 銀は金より価格変動が大きい
銀投資で最も注意すべきなのが、価格変動の大きさです。
ワールド・ゴールド・カウンシルの長期分析では、銀の価格変動率はおおむね金の約2倍です。銀は金より市場規模が小さく、売買の厚みも少ないため、投資資金の流入や流出によって価格が大きく動きやすくなります。
金価格が上昇する局面では、銀は金以上に上昇することがあります。
しかし、金価格が下落した場合や投資家が一斉に貴金属から資金を引き揚げた場合には、銀の方が大きく下落する傾向があります。
そのため、金と同じ金額を銀に投資すると、資産全体が受ける価格変動リスクは大きくなります。
## 「安全資産」とは限らない
銀は貴金属であるため、インフレや通貨不安への備えとして買われることがあります。
しかし、金融危機や景気後退時に常に上昇するわけではありません。銀は工業需要への依存度が高く、景気が悪化すると電子機器や自動車などの需要減少が意識され、株式や工業用金属と一緒に売られる場合があります。
金が危機時の防御資産として買われやすいのに対し、銀は「貴金属」と「工業用金属」の両方の性質を持っています。このため、例えば景気後退の株価急落時の値下がりをヘッジする目的では、金と同じ働きを期待できないことがあります。
## 工業需要の変化に左右される
銀需要の大きな部分を工業用途が占めています。特に太陽光パネル、電子・電気機器、自動車、データセンターやAI関連設備などが重要です。
工業需要が伸びれば銀価格の上昇要因になりますが、世界景気の悪化や中国の製造業の減速は下落要因になります。
また、銀価格が高騰すると、メーカーは製品1個当たりの銀使用量を減らしたり、ほかの素材へ置き換えたりします。
2026年は太陽光発電の導入拡大が続く一方、銀使用量の削減や代替が進むことで(一基当たりの太陽光発電への銀の使用量も減少傾向)、工業需要は前年比2%減の約6億5,000万オンスになると予測されています。
「太陽光発電が伸びるから銀需要も必ず増える」と単純に考えないことが重要です。
## 供給不足でも価格が必ず上がるわけではない
銀市場は2026年に6年連続の供給不足となり、供給に対して需要が約6,700万オンス上回ると予測されています。
しかし、供給不足だから価格が一直線に上昇するとは限りません。
不足分は地上在庫の取り崩しによって補われるほか、価格が上がれば銀製品の売却やリサイクルも増えます。銀ETFから大量の資金が流出すれば、投資用として保有されていた銀が市場へ戻ることもあります。
供給不足は長期的には価格を支える要因ですが、短期的な価格は投機資金、為替、金利、ETFの資金移動などに強く左右されます。
## 銀価格が上がっても生産量はすぐ増えない
銀は、銀だけを目的に採掘されるとは限りません。
2026年予測では、銀鉱山として採掘される銀は鉱山生産全体の約28%にとどまり、残りの多くは銅、鉛、亜鉛、金などを採掘する際の副産物です。
そのため、銀価格が上がっても、銅や亜鉛の生産が減れば銀の供給も減る可能性があります。反対に銀価格が下落しても、主産物である銅などの採掘が続けば、銀の供給は維持されます。
銀の需給を判断する際には、銀価格だけでなく、銅、鉛、亜鉛の鉱山動向も確認する必要があります。
## 一度に大量購入しない
銀は短期間で急騰すると、「まだ上がる」と考えて資金を集中させやすい商品です。
しかし、急騰後には大幅な調整も起こりやすいため、一度に大量購入するより、購入時期を分ける方が高値づかみのリスクを抑えられます。
また、銀の値動きは金より大きいため、同じ価格変動リスクに抑えるには、金より投資金額を小さくする必要があります。
生活資金や数年以内に使う予定の資金ではなく、価格が大きく下落しても保有を続けられる範囲に限定することが重要です。
金鉱山大手ニューモントが最高益!好業績なのに株価が下落する理由
金価格の高騰が続く中、世界最大の金鉱山会社であるニューモント(Newmont Corporation、NYSE: NEM)が、かつてない規模の収益を叩き出している。
一方で株価は年初からは調整局面に入っており、好業績と市場評価のギャップが投資家の間で話題になっている。
## 会社概要
ニューモントは米コロラド州デンバーに本社を置く、世界最大の金生産会社である。
最近の出来事で言うと
2019年にゴールドコープを100億ドル(株式交換中心)で買収。さらに同年にはネバダ州の鉱山群をライバルのバリック・ゴールドと共同運営する合弁契約を締結した。
さらに2023年11月には豪州の大手鉱山会社ニュークレストを買収し、規模をさらに拡大した。
現在は南北アメリカ、アフリカ、オーストラリア、パプアニューギニアにまたがる11の鉱山と2件の合弁権益を保有し、金に加えて銅・銀・亜鉛・鉛も副産物として生産している。
ニュークレスト買収後には6つの非中核金鉱山を売却し、ポートフォリオの選別も進めてきた。
## 2026年の業績:記録更新
2026年に入り、ニューモントの業績は四半期ごとに存在感を増している。
第1四半期(1~3月期)では、四半期として過去最高となる31億ドルのフリーキャッシュフローを生み出し、約130万オンスの帰属金生産量を確保した。
※「帰属金生産量」とは、「自社が100%持つ鉱山の生産量」+ 「共同事業(JV)や子会社が持つ鉱山の、自社の持分(%)に応じた生産量」
売上高は前年同期比45.9%増の73.1億ドルに達し、調整後1株利益は市場予想を大きく上回った。
この急成長を牽引したのは生産量の増加ではなく、金価格そのものの上昇であり、設備投資や増産を伴わずに収益が拡大したことが特徴とされている。
第2四半期(4~6月期)も好調が続いた。帰属金生産量は約130万オンス、第2四半期として過去最高となる22億ドルのフリーキャッシュフローを計上し、通期の業績見通しの達成に向けて順調な進捗を示した。
ナタシャ・ビルジョエンCEOは、堅固なバランスシートと一貫した資本配分方針に支えられ、前回決算発表以降、配当と自社株買いを通じて19億ドルを株主に還元したとコメントしている。
## 株価は年初の価格から下落傾向
好調な業績とは裏腹に、ニューモント株は2026年1月2日の終値101.22ドルに対し、8月4日は97.73ドルで取引を終え、年初来では約3.4%下落している。また、1月28日につけた高値131.38ドルからは約26%下落している。
株価調整の背景には、第2四半期に金価格が第1四半期の高値から下落したことに加え、カディア鉱山の地震による操業停止や生産コストの上昇に対する警戒もあったと考えられる。
市場では、金価格の下落にもかかわらず堅調な決算と通期の業績予想の据え置きを発表したことが評価されている一方、証券会社の一部は目標株価を引き下げており、シティグループはニューモントの目標株価を150ドルから125ドルへ引き下げつつも、投資判断は「買い」を維持している。
## 株主還元を軸とした資本配分
ニューモントは近年、フリーキャッシュフローの多くを株主還元に振り向ける方針を鮮明にしている。
第1四半期時点で、既存の自社株買いプログラムのもとで累計60億ドルの自社株買いを実行済みであることを公表したほか、四半期配当(1株あたり0.26ドル)も継続している。
第1四半期決算では自社株買いの追加承認も発表されており、金価格の押し目局面でも株主還元姿勢を崩していない点が、機関投資家からの評価を支える一因となっている。
## 今後の焦点
金価格が上昇する限り、生産量の伸び以上に収益性が改善しやすい構造にある一方、価格が反落した場合には利益の変動幅も大きくなりやすい。
今後は、8月以降に予定される決算や業績予想の更新に加え、カディアやタナミといった主要プロジェクトの進捗、そして中央銀行や機関投資家による金需要動向が、株価と業績を占う材料として注目される。
【外貨準備】韓国中央銀行が13年ぶりの金購入へ!国内保管の狙い
韓国の中央銀行である韓国銀行は、国内で生産された金を購入するための新たな協力体制を構築した。
韓国銀行が実物金の購入に向けて動くのは、2013年以来、約13年ぶりとなる。地政学的な不確実性が高まり、世界の中央銀行が外貨準備の分散先として金を重視するなか、韓国も金保有を中長期的に増やすための準備に入った。
## 金保有量は13年間104.4トンのまま
韓国銀行が保有する実物金は104.4トンで、2013年以降ほとんど増えていない。
韓国銀行が公表する外貨準備統計では、金の評価額は約47.9億ドルで、外貨準備全体に占める割合は約1.1%となっている。
ただし、この数字は韓国銀行の統計上の評価方法に基づくものだ。現在の市場価格で時価評価すれば、外貨準備に占める金の割合はおおむね3.5~4%程度になるとみられる。
## 2011~2013年の購入後に金価格が下落
韓国銀行は2011年から2013年にかけて金を大量に購入し、保有量を104.4トンまで増やした。
しかし、その後に国際金価格が下落したため、国内では「高値で購入したのではないか」との批判が起きた。
これ以降、韓国銀行は金について、利息や配当を生まないことや、価格変動が大きいことなどを理由に、追加購入に慎重な姿勢を続けてきた。
## 国内で生産された輸出用の金を購入
今回、韓国銀行はLS MnM(韓国の最大手銅製錬企業)、韓国取引所、韓国証券預託院などと、国内産金を購入するための協力体制を構築した。
韓国国内では、LS MnMや高麗亜鉛が銅や亜鉛を製錬する過程で、副産物として金を生産している。両社の年間の金生産量は合計約40~45トンで、このうち海外へ輸出される量は年間4~5トン程度と報じられている。
韓国銀行が購入対象とするのは、国内市場に供給される予定の金ではなく、もともと海外へ輸出される予定だった金である。
国内の金需給を奪わず、韓国国内の金価格に与える影響を抑えることが狙いだ。
## 国際金価格を基準にウォンで決済
購入価格は国際金価格を基準として決められる。
取引には韓国取引所と韓国証券預託院の取引・決済・保管システムが利用され、韓国ウォンでの決済が可能になる。
ただし、一般投資家が参加する通常の取引所取引で大量の買い注文を出すわけではない。売り手と買い手が価格や数量を事前に取り決める「協議大口取引」が利用される。
そのため、韓国取引所の通常の注文板に大口買い注文が現れ、国内金価格を急上昇させる可能性は低いとされている。
## 国内保管によって保管場所も分散
韓国銀行が現在保有する104.4トンの金は、全量が英国の中央銀行であるイングランド銀行に保管されている。
ロンドンは世界最大級の金取引市場であり、金の売却や貸し出し、ドルへの換金を行いやすいことが理由だ。
一方、今後購入する国内産金については、韓国証券預託院などの国内施設で保管する仕組みが利用される。
これにより、すべての実物金を海外の一か所に置くのではなく、国内外に保管場所を分散できる。外貨準備の運用方法だけでなく、金の保管体制を多様化する意味もある。
## 海外上場の金ETFも少額購入
韓国銀行は実物金の購入体制を整える一方、2026年第2四半期から、海外市場に上場する現物金連動型ETFを少額購入し始めたことも明らかにした。
ETFは実物金そのものではなく、韓国の外貨準備統計では「有価証券」に分類される。
そのため、ETFを購入しても、韓国銀行が公表する実物金保有量104.4トンが、そのまま増えるわけではない。しかし、金価格への投資額という意味では、2013年以来となる新たな金関連投資である。
ETFには、実物金よりも売買しやすく、保管費用を抑えられるという利点がある。韓国銀行はETF、実物金、金の貸し出しなど、複数の手段を組み合わせて金への投資を検討している。
## 購入時期と規模はまだ決まっていない
注意したいのは、韓国銀行が具体的な購入量や購入日程を公表していない点だ。
国内生産会社が売却可能な量と希望時期を提示し、韓国銀行が外貨準備の運用計画、国際金価格、市場環境などを考慮したうえで、実際に購入するかどうかを判断する。
したがって、韓国銀行が年間4~5トンをすべて購入すると決まったわけではない。
今回の発表は、大規模な金購入を直ちに始めるというよりも、国内産金を購入できる制度とインフラを整え、中長期的に金保有を増やす選択肢を確保したものと理解するのが適切である。
【天然鉱山の数十倍】スマホに眠る金!日本の都市鉱山と最新技術
世界的なインフレや地政学リスクを背景に、金の価格が高騰を続けている。そうした中、世界有数の“資源貧国”とされる日本で俄然存在感を増しているのが「都市鉱山」だ。
私たちの手元にある使い古したスマートフォンやパソコンの中に、実は天然の金鉱山を遥かに凌ぐ高濃度の金が眠っているのをご存じだろうか。
## 1. 天然の鉱山を圧倒する「スマホの中の金」
天然の金鉱山から掘り出される鉱石は、1トンあたりわずか3〜5グラム程度の金しか含まれていないことが一般的だ。
しかし、使用済みのスマートフォンを集めて分解・精錬すると、1トンの基板からおよそ200〜300グラム前後の金が回収できるという。実に天然鉱山の数拾倍という圧倒的な高濃度を誇るのだ。
日本国内に眠る都市鉱山の金蓄積量は約6,800トン(世界全体の現物埋蔵量の約1割に相当)とも試算されており、日本は事実上「世界有数の金資源国」とも言える潜在力を秘めている。
## 2. 進化するリサイクル最前線
これまでの金回収といえば、手作業での解体や、強酸・薬品を使って溶かすといったアナログかつ環境負荷の大きいプロセスが課題とされていた。しかし現在、その現場はテクノロジーによって一変している。
●AIとロボティクスによる高速選別
基板上のICチップやコネクタなど、金が多く使われている部品をAI画像認識で瞬時に識別し、エア噴射などでピンポイント選別するシステムが実用化されている。
●バイオ製錬(バイオリーチング)
微生物や酵素の力を利用して金属を溶解・抽出する技術。従来の化学薬品を使う方法に比べ、CO2排出量や有害廃棄物を大幅に抑えられる環境対応技術として研究開発が進む。
## 3. なぜ今、世界で「リサイクル金」が求められるのか?
金リサイクルが急速に脚光を浴びている理由は、価格の高騰だけではない。
●環境・ESG投資への対応
天然金の採掘には膨大な電力や水が必要であり、大規模な森林破壊や有害物質(水銀など)による環境汚染が問題視されてきた。
対してリサイクル金は、圧倒的に少ない環境負荷で生産できるため、ジュエリーブランドやIT大手(Appleなど)が「100%再生金の採用」を前面に打ち出す動きを加速させている。
●地政学リスクと「資源セキュリティ」
金の採掘国や精錬能力が特定の国に偏る中、国内で資源をぐるぐると循環させる「水平リサイクル」は、地政学的リスクに左右されない強いサプライチェーンを構築する鍵となっている。
## 4. 「タンス眠り」をいかに掘り起こすか?
技術がいくら進化しても、最大の障壁となっているのが「回収率」だ。
小型家電リサイクル法などの整備は進んでいるものの、個人情報が入った古いスマホやガラケーを「捨てずに自宅の引き出しに眠らせている(タンス在庫)」が依然として多い。
近年では、宅配買取サービスの拡充や、自治体・EC事業者と提携した個人情報の完全消去保証つき回収イベントなど、「消費者のハードルを下げる工夫」が各地で試みられている。
## まとめ:あなたの引き出しが、未来の資源になる
かつて「捨てられるゴミ」だった電子基板は、今や技術革新と意識の変化によって、最もクリーンで価値の高い「資源」へと生まれ変わった。
世界的な脱炭素と脱ドルの波の中で、都市鉱山から採掘される金は、単なる貴金属としてだけでなく、持続可能な社会を支える「インフラ」として、今後さらに重要性を増していくだろう。
【南アフリカが7割】プラチナの需給構造と供給不足の理由
## 金・銀とはまったく異なる需給構造
プラチナは金と銀、この2つの貴金属とは根本的に異なる特徴を持っている。生産が極端に一部の国・地域に集中していること、そして需要の中心が投資でも宝飾品でもなく「自動車の排ガス触媒」であることだ。
## プラチナの生産構造
World Platinum Investment Council(WPIC)によれば、南アフリカ・ロシア・ジンバブエの3カ国だけで、世界のプラチナ生産の約90%を占めている。その中でも南アフリカが7割を占める。
さらに南アフリカは、世界で確認されているプラチナ族金属埋蔵量の約90%(約6,300万キログラム)を保有しており、生産面だけでなく埋蔵量の観点でも他の追随を許さない圧倒的な存在である。
## 供給の約4分の1を支えるリサイクル
2025年のプラチナの供給が225.2トンだが、鉱山生産が172.9トン、リサイクルが約52トン。
内訳では、使用済み自動車触媒からの回収が124万1,000オンスで、リサイクル全体の約74%を占めている。
宝飾品からの回収が35万6,000オンスで約21%、工業製品からの回収が8万1,000オンスで約5%。
自動車が廃車になると、排ガス浄化装置に含まれるプラチナを回収できる。
プラチナ価格が上昇すると、これまで採算が合わず保管されていた低品位の触媒や宝飾品スクラップも市場へ出やすくなる。
## 需要構造:自動車が最大
WPICのデータによれば、2025年のプラチナ需要は、自動車向けが36%、宝飾品が26%、産業用が24%、投資が14%という構成になっている。
プラチナが自動車分野で使われる最大の理由は、排ガス浄化装置(触媒コンバーター)の触媒としての性質にある。
特にディーゼル車の排ガス処理においてプラチナは中心的な役割を果たしており、これが長年にわたりプラチナ需要の屋台骨を支えてきた。
しかし、この構造には大きな不確実性がある。電気自動車(EV)へのシフトが進めば、内燃機関を持たないEVには排ガス触媒そのものが不要になるためだ。
WPICは、EVへの移行ペースは当初の予想よりも緩やかであるものの、電動化という大きな流れそのものは不可避だとの見解を示している。
ただし、水素で走る自動車「燃料電池車(FCV: Fuel Cell Vehicle)」においてプラチナは発電を行う心臓部に不可欠な核心材料(触媒)として使われている。
燃料電池車1台あたりに使われるプラチナの量は、従来のエンジン車よりも大幅に多くなる。
従来のエンジン車:1台あたり約 2g〜5g 程度
現在の燃料電池車(トヨタ・ミライなど):1台あたり約 20g〜30g 程度(従来の数倍〜10倍近く)
仮に将来的に燃料電池車が世界中で本格普及した場合、自動車業界からのプラチナ需要は飛躍的に高まることになる。
## 2025年は約37トンの供給不足
2025年のプラチナ供給は724万オンスだったのに対し、需要は843万1,000オンス。
需要が供給を119万1,000オンス、約37トン上回る。
プラチナ市場は2023年、2024年、2025年と3年連続で供給不足となった。
不足分は、過去に蓄積された地上在庫の取り崩しによって補われる。
WPICが定義する地上在庫は、2024年末の323万5,000オンスから、2025年末には204万4,000オンスへ37%減少。
これはETFや取引所在庫、鉱山会社や加工業者の通常在庫を除いた、短期的に市場へ供給可能と推定される非公開在庫である。
ただし供給不足が続いても、直ちにプラチナが市場からなくなるわけではない。
しかし、地上在庫が減少するほど、鉱山生産やリサイクルが減少した際に、価格が反応しやすくなる。
## プラチナ相場を見る際の重要ポイント
プラチナ相場を分析する際には、価格だけでなく、次の構造を見る必要がある。
第一は、南アフリカの鉱山生産
世界の鉱山供給の約7割を占めるため、電力、労使交渉、設備保守、天候、精錬所の稼働状況が重要になる。
第二は、自動車市場
バッテリー式電気自動車、ハイブリッド車、ディーゼル車、大型車、燃料電池車の構成によって、触媒需要が変化する。
第三は、パラジウムとの価格差
パラジウムがプラチナより高ければ、ガソリン車触媒でプラチナへの置き換えが進みやすくなる。
逆に価格差が縮小しても、車両認証や設計変更に時間がかかるため、需要はすぐには元に戻りにくい。
第四は、リサイクル供給
価格が上昇すると使用済み触媒や宝飾品の回収量が増え、鉱山供給の不足を一部補う。
第五は、中国の動向
中国は自動車、宝飾品、工業、地金投資のすべてに関わる大市場。中国の消費者需要や製造業、投資商品の拡大は、世界の需給に大きな影響を与える。
第六は、ETFと取引所在庫
プラチナ市場は金市場より小さいため、投資資金が流入・流出すると、需要統計と価格が大きく動く可能性がある。
自分に合う金投資はどれ?現物・積立・ETFなど7つの方法を比較
金投資には、現物を直接購入する方法から、証券やデジタル資産を使う方法まで、さまざまな種類があります。
## 貴金属会社から現物金を買う
田中貴金属などの貴金属会社から、金地金や金貨を購入する方法です。
金そのものを所有できるため、金融機関や運用会社の信用に依存しにくいのが特徴です。
一方、自宅で保管する場合は盗難や紛失の危険があり、貸金庫などを利用すれば保管料がかかります。
また、購入価格と買取価格の差も比較的大きいため、短期売買より長期保有に向いています。
購入手数料は、大抵の貴金属会社では、500gと1kgは無料です。その他のグラム数では手数料がかかる会社が多いです。
## 純金積立
毎月一定額ずつ金を購入する方法です。
金価格が高いときには少なく、安いときには多く購入するため、購入時期を分散できます。少額から始めやすく、自動的に積み立てられるのがメリットです。
ただし、買付手数料や年会費、現物を引き出す際の手数料がかかる場合があります。
また、消費寄託、混蔵寄託という2種類の預け方があり、
消費寄託は所有権は運営会社に移り、運営会社がその資産を運用できるので、購入手数料が安くなったり、ボーナスとして一定量貰えるメリットがあります。ただし、会社が倒産したら、積み立てた金は返ってきません。
混蔵寄託は所有権はお客様(契約者)に残り、会社の財産とは分けて専用金庫で保管されます。ですので、会社が倒産しても積み立てた分は返却されます。
## 金ETF
金価格に連動する上場投資信託を、株式と同じように証券取引所で売買する方法です。
現物金を自分で保管する必要がなく、少額から売買しやすいのが特徴です。ただし、当然ですが、信託報酬などの維持費がかかります。
買値と売値のスプレッドが現物を買うよりも狭いので、短期の投資としてもいいです。
ただし、金価格が急激に変動する場面では、価格が大きく乖離する場合があるので、注意してください。
有名な金ETFは三菱系の会社が運営している「金の果実」、海外の金ETFで言うと「スパイダーゴールドシェア」です。
## 金の投資信託
金ETFは上場している投資信託ですが、ここで言う投資信託は上場していない投資信託です。
少額から購入でき、毎月の自動での積立設定もしやすいため、初心者にも利用しやすい方法です。
もちろん、運用管理費用は継続的にかかります。
数えきれないほどの金の投資信託があるのですが、基本的には、成績がいい、資産が大きい投資信託を選べばいいです。
## 商品先物・CFD
証拠金を預け、実際の資金より大きな金額を取引する方法です。
金価格の上昇を狙う「買い」だけでなく、下落を狙う「売り」からも取引できます。
少ない資金で大きな利益を得られる可能性がある一方、予想と反対方向に動けば大きな損失が発生します。
追加証拠金や強制決済の危険もあるため、長期的な資産保全より短期売買に使われる商品です。
## 金鉱株
金を採掘する鉱山会社の株式を購入する方法です。
金価格が上昇すると鉱山会社の利益が大きく増え、株価が金価格以上に上昇することがあります。
しかし、金鉱株は金そのものではありません。採掘コスト、鉱山事故、政情不安、鉱石品位の低下、経営状態などにも左右されます。金価格が上昇していても、株価が下落する場合があります。
上昇も下落も変動幅が大きいので、初心者は手を出さない方がいいです。
## テザーなどの金連動型暗号資産
現物金を裏付けとするデジタルトークンを購入する方法です。
代表例には、Tether GoldのXAUTやPAX GoldのPAXGがあります。
金連動型トークンは、少額でも投資ができ、原則として24時間売買・送付できることが特徴です。
購入した金連動型トークンを貸し出すことで利息を貰える取引所もあります。
ただし、発行会社や取引所の破綻リスク、ウォレットや取引所のハッキング、秘密鍵の紛失などのリスクがありますので、暗号通貨をやったことがない人は手を出さない方がいいです。
## まとめ
現物金を長期的に所有したい人は、貴金属会社から金地金を購入する。
少額で長期的に購入したい人は、純金積立。
証券口座で手軽に売買したい人は、金ETFや投資信託。
短期的な値動きを狙いたい人は、商品先物やCFD。
金価格以上の値上がりを狙いたい人は、金鉱株。
ブロックチェーン上で金価格に投資したい人は、XAUTやPAXGなどの金連動型暗号資産が候補になります。
同じ金投資でも、実際に所有するものやリスクは異なります。
金価格下落で中国中央銀行の爆買い加速!7月20トンで21カ月連続増
中国人民銀行によるゴールドの買い増しが、さらに加速しています。
2026年8月7日に発表されたデータによると、中国の金準備は7月末時点で7,608万トロイオンスとなり、6月末の7,544万オンスから64万オンス増加しました。
重量に換算すると約19.9トン、ほぼ20トンの追加購入です。
これで中国人民銀行による金準備の増加は21カ月連続となりました。しかも注目すべきなのは、単に買い続けているだけではなく、ここ数カ月で購入量を急速に増やしていることです。
## 3月5トン、4月8トン、5月10トン、6月15トン、7月20トン
中国人民銀行の2026年春以降の買い増し量を見ると、非常に分かりやすい動きが見えてきます。
3月は約5トン、4月は約8トン、5月は約10トン、6月は約15トン、そして今回発表された7月は約20トンです。
正確には、
3月 約4.98トン
4月 約8.09トン
5月 約9.95トン
6月 約14.93トン
7月 約19.91トン
となります。
つまり、5カ月連続で月間の買い増し量が拡大しているのです。
3月から7月までの5カ月間だけでも、合計約57.9トンの金準備が増えました。
中国人民銀行は5月に10トンを購入した時点ですでに2024年12月以来最大の月間購入となっていましたが、6月には15トン、さらに7月には20トンと、その記録を立て続けに更新しています。
## 7月末の金保有量は約2,366トン
7月末の7,608万オンスを重量に換算すると、中国の公式金準備は約2,366トンになります。
6月末には約2,346トンだったため、1カ月で約20トン増えたことになります。
2026年上半期だけでも、中国人民銀行は約40トンの金を追加しました。
そこへ7月の約20トンが加わったため、2026年1月から7月まででは約60トンの増加となります。
中国はすでに世界有数の金保有国ですが、それでも購入を止めるどころか、最近はむしろペースを速めています。
## 金価格が下落するほど購入量を増やした
特に興味深いのが、金価格との関係です。
2026年前半の金価格は大きく調整しました。
その一方で、中国人民銀行の購入量は、
5トン
8トン
10トン
15トン
20トン
と増えていきました。
つまり、少なくとも月次データを見る限り、金価格が調整する中で、中国人民銀行はむしろ購入量を拡大していたことになります。
特に6月は金価格が大幅に下落したことで、15トンを購入しました。これは2023年10月以来の大きな月間購入でした。
そして7月には、それをさらに上回る約20トンを追加しています。
## 「底値で買った」とまでは断定できない
ただし、一つ注意があります。
中国人民銀行が公表しているのは月末時点の金準備量です。
「何月何日の何ドルで購入したのか」という具体的な売買価格や購入日は公表されていません。
そのため、
中国人民銀行が金価格の底値を正確に狙って20トン買った
とまでは断定できません。
ただ、価格調整が進んだ3月以降、月を追うごとに公式金準備の増加量を拡大していることは数字から確認できます。
したがって、
金価格の下落局面を利用する形で、中国人民銀行が買い増しペースを加速している
という表現が最も正確でしょう。
## なぜ中国はこれほどゴールドを買うのか
中国が金を買い続ける背景には、単に「金価格が上がると予想している」という理由だけではないと考えられます。
中央銀行にとって金は、株式投資のような値上がり益を狙う商品ではありません。
重要なのは、他国の信用に依存しない準備資産であることです。
米国債を保有すれば米国政府の信用に依存します。ドル預金を保有すればドル金融システムに依存します。
しかし、現物の金には発行国がありません。
誰かの債務でもなく、発行主体が破綻して価値がゼロになるという信用リスクもありません。
ワールド・ゴールド・カウンシルも、中国による継続的な購入について、地政学リスク、貿易摩擦、金融市場の不安定化が進む中で、金が「信用リスクを持たない資産」であることの重要性が高まっていると指摘しています。
## ドルへの依存を少しずつ下げている
中国にとってもう一つ重要なのが、外貨準備の分散です。
2026年7月末の中国の外貨準備は約3兆4,188億ドルです。
中国は巨大な外貨準備を持っているため、そのすべてをドルや米国債に集中させることにはリスクがあります。
そこで、
ドル・米国債
+
ユーロなどの外貨資産
+
ゴールド
という形で準備資産を分散することになります。
中国人民銀行が金を継続的に購入していることは、短期的な金価格予想というより、長期的に外貨準備の中でゴールドの比率を高めていく政策として見る方が自然です。
## 21カ月連続という異例の買い
今回で中国人民銀行の金準備増加は21カ月連続となりました。
6月時点ですでに、公開データ上では最長の連続増加記録となっていました。
しかも今回注目されるのは、その「連続回数」だけではありません。
2025年には少量ずつ買い続ける「小幅な積み増し」が中心でした。
ところが2026年春以降は明らかに様子が変わっています。
3月約5トンから始まり、7月には約20トン。
わずか4カ月で月間購入量が約4倍になりました。
中国人民銀行が金準備を増やすという長期的な方向性そのものは変わっていませんが、最近はそのスピードまで上がっているのです。
## 金価格にとって中央銀行購入は重要な下支え
中央銀行による金購入は、金価格にとって非常に重要です。
中央銀行は短期トレーダーとは違い、購入した金を数週間後に売却するような取引を基本的には行いません。
外貨準備として長期間保有するため、市場から金を吸収する効果があります。
中国だけでなく、ポーランド、カザフスタン、ウズベキスタンなど、多くの中央銀行が近年金準備を増やしています。
ワールド・ゴールド・カウンシルの2026年調査でも、中央銀行による世界的な金購入は構造的な傾向になっていることが示されています。過去4年間の中央銀行による金購入は平均で年間約1,000トンほどに達しています。
この買い手の存在が、金価格が大きく下落した際の一つの下支えになっています。
【香港取引所】金先物の手数料免除で取引高急増!狙う金ハブ化
香港取引所(HKEX)は2026年7月6日、同市場に上場する「米ドル建て金先物(プロダクトコード:GDU)」を対象とした取引手数料免除プログラムを正式に開始しました。
今回、香港取引所が発表した施策の柱は、片道1.00米ドルの標準取引手数料を全面的に免除するというものです。この手数料免除は2026年7月6日から2027年6月30日までの約1年間にわたって適用されます。
この措置は、香港が世界の貴金属取引および保管のハブとしての地位をさらに強固にするための戦略的な一歩として市場の注目を集めています。
## 米ドル建て金先物(GDU)とは何か
対象となっている米ドル建て金先物(GDU)は、1契約あたり1キログラムの金(純度0.9999以上)を原資産とする現物決済型の先物契約です。
現物決済型であるため、単なる価格のヘッジや投機にとどまらず、実際に金の現物を確保・調達したい実需層のニーズにも応える設計となっています。
また、日中セッション(香港時間午前8時30分~午後4時30分)に加えて、アフターアワーズ・セッション(午後5時15分~翌午前3時00分)でも取引が可能であり、欧米市場の動向を見据えながらアジア時間帯をカバーできる柔軟性も大きな特徴です。
## スタートは好調
施策がスタートしたまさにその日(2026年7月6日)、日中セッションだけで6,676枚の取引高を記録しました。これは、過去の最高記録(2022年11月の3,039枚)をダブルスコア以上で塗り替える歴史的な数字です。
この勢いは単日では終わらず、2026年7月全体での月間取引高は約18万枚(180,104枚)に達し、かつてないほどの活況を呈しました。
## なぜ今、金先物の活性化を急ぐのか
HKEXがこのタイミングで強力なテコ入れを行った背景には、香港全体が進める「金(ゴールド)戦略」との深い結びつきがあります。
香港では現在、空港直結型の巨大な金庫の整備や、新たな金中央清算・決済システム(PMCC)の試験運用など、金の物理的な保管から帳簿上の決済に至るまで、金融インフラの急激な増強が進められています。
香港はロンドンやニューヨークといった伝統的な金市場からアジアへと取引の中心を本格的に引き寄せようとしています。